ムショうの
キスは、すごく素敵なものなんだろうなぁって、思ってた。アラジンとか、マンガとか、その中だけならよかった。素敵なままだった。
本当のキスは。
画面や本からにゅううっと出てきたみたいで、いきなりで、ゾッとして、急にリアルで。
鏡のなかの自分から、目をそらす。
・・・スマッシュなんか、決めなければよかった。
その日の授業は、ずっと上の空だった。
ずっと落ち着かなかった。みんなに、見られているような気がして。
そんなわけないのに。クラスメートたちが見ているのは、黒板だったり、机の下にかくされた携帯だったり、もしくはなにを見るでもなく、ばんやり空想にふけっているんだから。わかっているのに。
自意識過剰。英語の時間に、電子辞書で調べてみる。
「自分のことを意識しすぎること」。ばかみたい。
気が重いまま、帰宅路につく。気だけじゃない。半日のあいだ筋肉がこわばっていたせいか、体もひどく重かった。
カバンの中には、一枚のCDが入っていた。
昼休みに、いきなりアオイが貸してくれたものだった。
よく知らないグループだし、べつに貸してほしくもないのに、「発売したばっかりで、すごくいいから」と強引に貸し付けてきた。そしてすぐに、男子たちのなかに戻っていった。
たぶん、朝からわたしが目を合わせないようにしていたから、気にしていたのかもしれない。
ごめん、という言葉の代わりに渡されたCDは、とても重い。
ため息をついて、顔をあげる。そして、視界に飛び込んできたものに目を丸くした。