ムショうの

 結婚式。うのちゃんの。

 ケーキカット。
 切りわけられたあとのショートケーキが配られるのがおそくて、式が終わってしまって、必死で口につっこんだせいで、むせた。

 バージンロードのうしろすがた。
 ヴェールが、ドレスが、すごく長かった。ちょっと、緊張した。よくわからない賛美歌の紙を配られて、歌うフリをした。

 ウェディングドレス。
 さんざん迷ったと言っていた。三回試着に行ったんだって。似合っていた記憶はあるけれど、どんなドレスだったかは、全く思い出せない。

 誓いのキス。
 たぶん、うのちゃんの横顔はすごくきれいだった。ような気がする。



「・・・キス、してもいい?」

 よこ、がお。じゃなくて、真正面。

 キンチョーしまくってる顔で、アオイはわたしを見て。
 キンチョーしまくってる声で、アオイは、わたしに言った。

 うのちゃんの電話から、一週間後。学校の帰り。

 一緒に勉強をしようと誘われて、制服のまま、アオイの家に寄った。

 アオイっていうのは、わたしの彼氏。
 宝野蒼衣。なんだか高級そうな、庶民っぽくない名前だと思う。

 けれど、アオイの家はフツウだった。庶民っぽい、フツウの一軒家だった。

 はじめて入ったアオイの部屋。カーテンは濃い青で、どちらかというと黒に近かった。青空より、宇宙にちかい感じ。宇宙の、月からすこし離れたくらいの、暗さの感じ。

 カーテンはダランと窓に寄りかかっていて、カーテン止めでしばられてはいない。

 朝、シャアッといきおいよく開けて、そのままなんだろう。アオイらしい。

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