ムショうの

 そのあと、しばらく沈黙がおちて、目が合わなくて、アオイからポツポツとしゃべりだして、それは至極どうでもいいことで。
 そうしてわたしたちはいつもどおりに戻って、DVDを観た。

 そのあと、バイバイをした。

 手を振るアオイは、なんだかうれしそうだった。



 アオイの家が見えなくなったころ、わたしは歩くスピードを速めた。

 なにかに追われるように、ズンズン歩いた。ズンズン。ズンズンズン。
 はずんで飛び出る息が、わたしのモノじゃないような気がした。くちびるがフワフワ、わたしから離れて浮かんでいるみたいだった。

 はじめてだった。
 わたし、キスも、はじめてだった。

 部屋に行って、キスをして。はじめてを、二つも。日曜日とかじゃなく、ふつうの、学校がある平日に。ごくごくフツウの平日に。

 考える。今日は、何曜日だったっけ。
 たぶん、水曜日。まだ、週の中日。そんなこと、どうでもいい。ううん、どうでもよくない。せめて、金曜日だったら。明日教室に入るときの顔とか、今から考えなくてすむのに。用意しなくていいのに。

 息をはく。くちびるは、まだフワフワしている。

 ・・・アオイが。

 今日すごくやさしかったのは、このためだったのかなぁ、と思ったら、すこしくやしかった。

 今朝から、アオイはとても優しかったのだ。
 わざわざわたしの机のところに来て「おはよう」を言ってくれたり。購買のジュース、わたしの分まで買っておいてくれていたり。

 一番は、昼休み。運動場から、わたしに手を振ってくれたこと。

 友達の中にいたわたしは、みんなに冷やかされて恥ずかしかったけれど、本当はとても嬉しかった。


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