ムショうの
だって、いつものアオイなら、考えられないことだから。
アオイはいつも、男子の中にいるとき、わたしのことは後回しだ。見向きもしない。わざと、知らないフリ。
教室にひびくバカ笑いが、「おまえとおるときより男とおるほうが楽しいねん」って言っているみたいに聞こえる。
楽しいねん。なぜか、関西弁。アオイのバカ笑いは、なんていうか、なんとなくだけれど、関西っぽい。
ズンズン歩く。アオイの顔が、わたしの脳内で、ドンドンふくれあがる。
アオイは、とてもキレイな顔をしている。蒼衣、というキレイな漢字を、そのまま表したってかんじ。
けれど、どうしてだろう。
キスをした時と、その直前は、一瞬だけ、夏の蒸された電車で、となりに座って豚足みたいな腕を押しつけてくるデブオヤジに抱く感情を持ってしまった。なんでだろう。なんで。いやだな。
チカン、ほどじゃないけど。チカンは、わたし、本気で殺したいって、思ってるし。
チカンにあった経験はない。満員電車に乗る機会が、そうそうないからかもしれない。
私立に通っている友達は、数回被害にあったと言っていた。話を聞くだけで、気持ち悪かった。
知らない男に、スカートの中身をさわられるなんて、ゾッをとおりこして、ゾゾゾゾゾーってかんじ。寒気がする。
歩くたび、ふとももにすれるスカートの生地。
この場所を、それ以上をあけわたすなんて、わたしにはまだ、想像もできない。
だって、こわくない?こわいよ。ほかのニンゲンに、だよ。服の下の皮膚にふれられるんだよ。スカートのなか、なんて、わたしのなかと同じ。
なかに入ってくるんだよ。こわい。わたしの中身が、わたしじゃなくなるみたい。