ムショうの

「・・・アールグレイは紅茶のなかに入るよ、うのちゃん」
「あ!そっかぁ!紅茶かぁ!!」

 テヘヘ、とうのちゃんが笑う。笑い声からそのまま、流れるように鼻歌が再開される。

 ・・・よくそうのんきに構えていられるなぁ。
 そんな感想を抱きながら、ぼんやりとうのちゃんをながめる。

 だって、離婚って、わりと一大事なことじゃないの。

 引っ越しの段ボールも、片づけもせずほったらかし。手をつけた様子もない。いつだってこうだ。こんなだったよなぁ、うのちゃんは。

 のんき。おちゃらけ。唐突。

 うのちゃんをあらわすとしたら、この単語三つがぴったり。

 なんせ離婚報告が唐突だったし、いきなり実家に戻ると言われても、部屋の確保が大変だった。

 元うのちゃんの部屋は、わたしの分もふくめ、大量の荷物置き場になっていたから。だから、うのちゃんが帰ってくる前日は、本当にドタバタだったのだ。

 まわりを慌ただしくさせて、当の本人はというと、

「紅茶はやっぱりアールグレイですわねぇー」

 貴族みたいな口調で、優雅に紅茶をすすっている。いい気なもんだ。

 ちょっとあきれながら、うのちゃんの正面にすわる。

 ズズーッと音をたてるうのちゃんの後ろ。デジタルフォトフレームに、うのちゃんの結婚式の写真が流れている。

 まだ、消されてなかったんだ。急だったから、お母さんもそこまで、気が回らなかったんだろう。

 そもそも、入力した写真データから、数枚だけを消すのはメンドウだ。


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