ムショうの

 うのちゃんの隣に写る、タキシードのひと。
 元ダンナの、上月さん。撫でつけた髪の下で、さわやかに笑っている。

 上月さんは、「すごくマトモな人」だった。一般的にはどうなのかわからないけれど、とりあえず、うのちゃんの歴代彼氏と比べたら。

 うのちゃんはいつもぶっとんだ男とばかりつき合っていて、その基準で行くと、一番マトモ。
 だって、上月さんは、髪の毛の色が変だったり、靴のまま家に上がろうとしたり、車で爆音ロックを流したりはしなかった。

 うのちゃんの高校んときの彼氏なんて、髪がミドリだったし。根本は黒くて、プリンっていうか、もうスイカだったから。

 わたしの髪は、真っ黒だな。

 すきとおった茶色のなかに映る、無表情のわたしを見つめる。鏡は、紅茶。「ほしい」なんて言っていないのに、うのちゃんはちゃんと、わたしの分まで入れてくれていた。

 うのちゃんの顔をチラッと盗み見て、口にふくむ。

 上月、うの。うのちゃんも、つい最近までは上月さんだったんだよなぁ。いまいち実感がわかないけれど。

 名字と名前。二つにわけられて、ガッチャンと組み合わせて、またわけられて。

 下田うの、から、上月うの、へ。上月うの、から、下田うの、へ。
 上から下へ、戻ってきたうのちゃん。

 うえから、した。下に。落下。ボスン。

 顔をバックに落として、うずめて、つぶやく。

「・・・アラジンが観たい」
「えーっ?アラジンー!?」

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