再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
望まぬ再会
(……嘘……)
何度思ったか分からない言葉が、常に頭の中を占めている。
別に、異動なんて普通だ。
拒否するなんてできないし、別にする気もない――他の部署であれば。
前にいたところがパンクしてて、少しでも経験のある人を、ということで声がかかったらしいけど。
それ自体だって、頼りにされて嬉しい面もある。
それが、あの場所でなければ。
(大丈夫……あそこからは、ちょっと遠いところの部屋にしたんだから。普通に生活してれば、会うはずない)
通勤にはちょっと不便だけど、安全には代えられない。
安全――ううん。
彼に酷いことされたわけでもないし、寧ろ大切にしてくれた。
大好きだったのも本当で、問題はひとつだけ。
――ただ、まともな人間でいられなくなりそうな恐怖。
・・・
彼――古藤 律と別れたのは、三年前。
このまま、関係を続けていてもいいのか悩んでた時、ちょうど他県にある支社に異動になった。
「城田さん、むこうに配属とか厳しいよね? 」
結婚の予定をさりげなく聞かれ、慌ててセクハラでもパワハラでもないと付け足されたけど、その時の私はまったく気にならなかった。
「いや、こんなこと聞いちゃいけないのも分かってるし、聞きたくないんだけど。でも、予定があったら転勤厳しいから……あ、もちろん他の事情があるなら……」
だって、それよりもチャンスだったから。
神様が、これ以上堕落するのを止めてくれたんだと本気で思った。
(……人間に戻れる)
――最後のチャンス。
・・・
『……も、……っ』
無理だ。
無理だと思える頭を、これ以上私から奪わないで。
『こーら。どこに行くの』
どこって、分からない。
ベッドから下りるのなんて、ただ足を床に伸ばせばいいだけたのに。
這いつくばろうとした私には、すぐそこのベッドの端すら、延々続くかと思うほど遠い。
でも、だから、逃げなくちゃ。
始めるのを承諾したくせに、最近の私はいつもこうだ。
『はい、おしまい。好きだね、そういうの』
好きじゃない。
そもそも、そういうのってなに。
(好きなんかじゃ……)
軽々と腰ごと連れ戻されながら、事実だと本心だと信じていることを心の中で呟く。
『そうやって、逃げるふりするプレイ? ……無理やり連れ戻されて、興奮するんだ』
それはそっちだ。
もっと早く逃げようとするのを阻止することも、最初から逃さないことだってできるくせに。
ベッドの縁まであとちょっとってところまで、私を自由にさせて。
『違う、も、イヤイヤ、でもないでしょ? 嘘吐いちゃうの可愛い』
(……そっちこそ)
――そうやって、後ろでにこにこするの、好きでしょ。
『そんなことして気を引かなくても、俺は小鈴しか欲しくないって。ね? おいで。うん……よしよし』
震えたのが、自分が捕まえたからだって思わないの。
どこまで、本気で言ってるの。
それを知りたくなくて、私は神様から貰った機会を受け取ることにした。