再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~



たとえ悩んでたって、彼氏だって言うべきだった理由はいくつかある。

律のことは――好きだ。
嫌いになんてなれなかったし、嫌悪感だけならさすがに家に行ったりしないし、寝たりもしない。
昨夜のことは、頑なに忘れようとしていた自分に、元々嫌いだから離れたんじゃないって証明してしまった。

それに――……。


「即答できないの、複雑な関係だからってだけでもなさそう。……何か、理由があるんでしょう? あの後、俺……すごい心配で。やっぱり、引き留めればよかったって、すごい後悔しました」


――吉井くんが、危なくなる。


「……そ、それは。お互い大人で、悪いことしてるわけでもなくて。昔、いろいろあったから悩んでるだけ。答え出すなら、やっぱり彼……」

「……何か、弱みでも握られてるんですか。逆らえなくなるようなこと。俺でよかったら……じゃない。俺に、教えてもらえませんか?城田さんを非難したりしないし、からかったりも絶対しません。だから……」


どうにか言葉にしかけたそれを、遮られてしまう。
親しくしすぎただろうか。
律にはああ言ったけど、吉井くんの好意には何となく気がついていたのに。


「俺に、城田さんを助けさせて」


相手が律であれば、絶対許されないその一言を言わせてしまった。


「……っ、そんなの絶対だめだよ……! 」


断らなくちゃ。
ある意味、告白よりも重く深い申し出に立ち上がると、カタンと食器が揺れた。
コップの水が少しこぼれて、慌てて押さえた指が震える。


「ほら。普通の反応じゃないですよ。単なる大人の関係ってやつなら、もっと気軽に返せばいいじゃないですか。俺を振るにしても……俺とも遊んでくれるにしても」


座った瞬間にとんでもないことを言われ、私今、どんな顔してるんだろう。
嫌な顔なんて、できるわけなかった。
だって、そう思われても仕方ない。


「嘘です。城田さんが、そんな女性じゃないことは知ってます」

「……そんなことない。そう思ってて……」

「じゃあ、どうしてそんな顔してるんですか。酷いこと言われたのに怒りもしないで、そんな泣きそうな顔。遊べる子がする顔じゃない。……ごめんなさい。試したりして」


自分の弱さが嫌になる。
律を彼氏だって言っておけば。
身体だけど何か?って開き直っておけば。


「そんなことないよ。……だって、昨日あの後……」

「いいんですよ、それでも。大人同士なんだから。変だなって思いながら、俺、そのまま行かせました。だから、その後何があろうが、俺にどうこう言う資格なんてないの分かってます」


私こそ、被せるように早口で言い切ってしまう吉井くんに、ピクッとしてしまう資格なんてない。


「あれからずっと、自分にすげームカついてて。城田さんに怒ってるんじゃないんです。……すみません、怖かったですよね」


怖くなんてない。
律の優しいのにゾクリとする感じ、冷たくも熱くも甘くもあるめちゃくちゃな感じに比べたら、まったく。
寧ろ分かりやすくて、ごく普通で、人間らしい感情だ。


「……でも、もう二度と嫌です。こんな後悔するの」


――だから、俺に任せてもらえませんか。






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