再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
・・・
「あいつ、なかなか頑張ってるよな」
「な……なんの話……」
律の部屋に着いてドアを閉めた途端、くっと笑われて冷や汗が流れる。
「同僚くん。さっき、すごい顔して俺を睨んでたよ? まあ、でも……お前の声聞いた時の顔の方がすごかったけど。普段は真面目で可愛い同僚くんが、どんな顔してたか知りたい? 」
「いっ、いい……! 」
雑に靴を脱いで、小走りで。
一体、どこに逃げようっていうの。
「目、真ん丸でー、真っ赤になっちゃって……」
「いいってば……!! 」
――寝室に逃げるなんて意味のない馬鹿なことしちゃうから、捕まえられずに泳がされる。
「いつもより高い声に興奮してるくせに……呼ばれたのが自分の名前じゃなくて、めちゃくちゃ傷ついた顔だよ」
予想はついたかもしれない。
好きな人のそんなところ見たら、誰だってそうなる。
それでもそう言葉にされてしまうと、愕然として身体が一切動かなくなる。
「……や、だ……」
だから、嫌なんだ。怖いんだ。
吉井くんのことを、律に知られたくなかった。
吉井くんに恋愛感情がないからこそ、いい人だって知ってるからこそ。
「ん? やだ? ……そうだね。お前は、あんなやつのことなんか知らなくていいよ。でも……」
付き合うことがないと分かってるから、余計に。
「……なんで、庇ったの? 」
――巻き込みたくなかったのに。
「庇ったって……」
「照れ屋の小鈴が、道端、しかも会社の真ん前で抱きついてくるなんて、おかしいでしょ。あいつから俺の目を逸らす為? あいつとは何でもないってアピール……じゃないよな」
バレてる。
何もかも。
そうだよ。
だって。
「あいつを俺から守る為……じゃない? 」
律は、私を知り尽くしてる。
「えー。同僚その1、そんなに大事? 」
「そ、そんなんじゃない。ただ、余計な心配掛けたくないし、誤解されたくもないから……」
「あー、そっか。そういうことね」
こういう時、私が何て返すのか。
必死に弁解してる時、どんなふうに焦るのか。
「告白されたんだ。もしかして、“彼氏、頭おかしそうだから、僕が守ってあけます”……とか言われちゃった? 」
絶望に限りなく似た感情に、もうピクンとすらできなくなることとか。
「……だ……から。断ったから、これ以上律に誤解されたくなくて……それに、吉井くんにだって男の人として見てないって言っ……」
言ったじゃない。
律の前で、はっきりと。
これ以上、どうしろっていうの。
「ん。すごい嬉しかったよ。ありがと」
吉井くんだって、こんなに律のものになってしまってる私に失望したはず。
きっと、これで諦めてくれる。
だから。
「でも」
……って言わないでよ。お願い。
「お前が他の男大事にしてんの、気分よくない。自分を差し出してまで守ろうとするなんてさ」
そう。
差し出したの。
だって、これが一番ダメージが少ないと思ったから。
そうだよね……?
「あんまり刺激しないで。……他の男の名前、呼べなくなるようにしちゃいたくなって困る」
――きっと、これが最小。