再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「吉井くんは、今頃どうしてんだろね」
他の名前を呼ぶなと言いながら、どうして今そんなことを言うの。
「知らないお前のこと思い出して、悶々してんのかな。悪いことしちゃったね」
律は、吉井くんよりも私に怒ってるのかな。
嫌だっていうのにやめてくれない。
「そんなことない……っ。でも、もうやめ……」
「ないわけないじゃん。寧ろ、得したって思ってるかもよ」
意味が分からない。
目の前でいちゃつかれて、別に好意がなかったとしても気まずいし、いい気分のはずがない。
「どんだけ俺にムカついても。お前のこと好きなら好きなだけ……お前が、自分じゃない他の最低の男に可愛い可愛いってされてる妄想、絶対頭から離れないよ」
絶句。
わざわざ口にしない言葉以外、頭が真っ白になって何も言い返せない。
「胸くそ悪いのに想像して興奮するの、やめらんない……とこだったりして。結構当たってると思うけど」
「……そ、んなことない」
そんなこと言われたら、まるでたった今見られてるような気分になる。
「なんで? 真面目で可愛い吉井くんが、そんな想像するわけないなんて思ってる? するに決まってるじゃん。昼間は普通に仕事の話して、真剣に働いてても終わったら……じゃないな。そんな普通にしてる裏で、同時にお前のこと妄想に使ってるよ」
律のベッド、散らかってるようでゆっくり落とされた服。
まだシャツを着たままの彼を恨めしそうに睨みながら、優しく頭を撫でられてるところを。
「信じらんない? でも、そうだよ。……だって、俺もそうだから」
(……この目だ……)
愛情いっぱいの瞳から、すっと感情が消える瞬間。
律は時々、こんなふうに私を見る。
ほんの一瞬前までの、愛しくて愛しくて堪らないって眼差しとの突然の変化に混乱して、何か怒らせるようなことをしちゃったのかと不安になる。
「……りっ、つは……」
「……俺は? どうした? 」
だから、その恐怖から逃げる為に咄嗟に甘えたがりのご機嫌取りになってしまう。
「……彼氏だから、違う……」
自分の弱さにぽろっと涙が落ちて、ますます自己嫌悪に陥る。
こんなところ、誰にも知られたくない。
吉井くんには尚更――そう思ってることが既にバレてる――つまり、もうそれは叶わない。
律が、許さない。
「ありがと。それは本当に……ただ、めちゃくちゃ嬉しい……」
恍惚にも似た、「好き」が詰まった視線に戻り、安心したのに身体がきゅっと縮こまる。
「大丈夫。何も心配いらない。また一緒にいれるんだから。今度は、ちゃんと守ってあげられる。な」
めちゃくちゃだ。
本末転倒だ。
一緒にいられるから危なくて、今度はもう逃げられないのに。
「……うん……」
当の本人を目の前――上にして、こくんと頷く私は愚かな生き物に映るんだろうな。
他の誰か、きっと、まともな人間には。
だって私は、律は最低じゃないかもしれないとすら再び思い始めてる。
どんなに他人にとって最低でも――私にとって、最悪だったとしても。