再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
恋愛という現実
掃除で疲れた私たちは、いつの間にか眠ってた。
綺麗になったばかりの新品の物が多い部屋で、もうずっと連れ添ったみたいに自然に。
健全だけど、その自然さに不慣れすぎて泣きそうになる。
(……こんなんじゃダメだ)
昔はこうだったんだから、きっとまた戻れるはず。
律の愛情は異常だ。
その気持ちは変わらないし、それが愛ゆえだと言われても許容できるものじゃない。
だとしても、私。
「……律」
――好きだよ。
傷んでない、長くて綺麗な睫毛。
声が届いたのか、少し皺の寄った瞼を見て確信する。
(……こんな時間を、もっとずっと過ごせたら……)
その想いは、私のなかで「愛してる」としか他に言い換えることができない。
嫌いだったら、どんな律だって一緒にいたいと思えるわけがないから。
「いつまで見てんの」
「わっ……」
いきなり腕を引かれて、彼の胸へと倒れ込む。
潰しちゃうんじゃないかって心配と、感じるはずだった衝撃がいつまで経ってもやって来ないのをみて、律の反対の腕に支えられてたことに気づく。
「俺の寝顔なんて面白くないだろ」
「そんなことないよ」
今笑ったのは、どうしてだろう。
慌てたのが、おかしかったのかな。
ぎゅっと目を瞑ったのが、面白かったのかな。
ねぇ、律。
「好き……」
そうやって、愛しそうに頭から背中まで手を滑らせてくれるなら。
「お。どうした? ……なんか、寂しくなった? 」
「……ちょっと、思い出しただけ」
(努力しなくちゃ。私も、理想の関係になれるように)
流されるばかりじゃいけない。
律を好きだと、認めるなら。
吉井くんが綺麗に諦められるくらい、理想の恋人になれる努力をしよう。
「離れてた時のこと? それとも、離れる前のこと? 」
「どっちも……」
律の愛情表現が狂っていたとしても、そうなってしまった原因がどこかにある。
それはきっと、私にも落ち度があったんだろうから。
抵抗できない関係なんておかしい。
少なくとも、彼と付き合う前の私は、そんなにやわじゃなかった。
それなら、律が好きになってくれた私は、為すがままにぐずぐずになる私じゃない。
「俺も好き。……知ってるか。嫌って言うほど」
ほんの少し、泣きそうな笑い方だった。
それを見て、心のどこかで彼もそう思ってくれていると感じるのは、都合よくとりすぎだろうか。
だとしても。
「今度は、嫌って言われないようにする。好きでいてくれて嬉しいって、小鈴に言ってもらえるように」
きっと、いい兆候なはず。
「ありがとう。そう思ってくれて嬉しい」
逃さないで。
律のそんなところ、今度こそ大切にしたい。
頬にキスするつもりだったのに、密着しているのが恥ずかしくて躊躇したせいで、目的地へと降りられなかった唇が彼の首筋に当たる。
「床で襲わないでくれる? 彼氏なのに、随分な扱い」
不意打ちだったからか、少しオーバーに唸ってそんな冗談を言う律だって好き。
「お、襲ってない。偶然!」
「そう? 狙ったでしょ」
「狙うって……」
たまたまだけど、でも。
その硬い床で、私が痛くないように抱いててくれたんだな。
「……狙ったかも」
「本当にどうしたの。やけに素直」
「……だって」
律から身体を退けて、彼の腕を引っ張る。
私じゃ引き上げるのは難しいのに、軽々と起こせたのだって律の優しさ。
「ごめん。いつの間にか寝ちゃってたんだね」
「謝ること何もないじゃん。寝顔見て抱っこできるの、オイシイしかないのに」
背中、痛かったよね。
それは言わなくていい気がして、代わりにまた胸に頬を寄せる。
「なら、私もおいしかったの」
「変なやつ。……俺も好きだよ。もちろん」
最初ぶっきらぼうに言ったのを後悔したのか、続けられたのは台詞よりもずっと甘い声音。
心地よすぎるこのドキドキを、これからも感じていたい。
頑張るから、どうか。
――こんな恋人らしい日常を、これからも過ごせますように。