再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
週が明けて、慌ただしい午前中を乗り切った昼休み。
お弁当に手をつける前に、ぼんやりとスマホを弄ってた。
(……あれからしなかったのも、いいことだよね)
その夜は二人ともくたくたで、うたた寝したのも関係ないくらい、爆睡してしまってた。
『二人でごろごろしたのに、大してイチャつかないで寝るとか……歳か』
『そ、そんなの普通だよ。毎日してたら、それこそおかしいじゃん。第一、いちゃいちゃはした……』
朝、パチっと目が覚めて。
顔を見合わせて笑ったのは、実は私も不思議だったからだ。
『そー? 俺はまだ足りなかった……んだけどな。ま、歳取ったのもあるし、疲れてたのもあるし……小鈴がいてくれることに安心したのかも』
『……いるよ? 』
大丈夫。不安にならないで。
伝わりますようにと念じながらくっつく私の額に口づける律は、安心したって言うみたいに笑ってくれた。
『……ありがとな』
少し掠れた、律らしくないちょっと弱気な声。
お礼には少しマッチしていないのと、そもそもお礼を言われる覚えがなくて首を傾げる。
『……毎日』
私の方こそ、ものすごく不安そうな顔をしてたんだろう。
今度は彼の方が安心させるように背中を撫でて、きゅっとそのまま抱きすくめられた。
『俺との毎日、一瞬でも考えてくれて。……分かってるって。無意識だよな。でも、だからこそ、ぽろっと出てきてくれたのが嬉しい』
『あ……』
確かに、無意識だった。
でも、思ってないことは無意識には出てこない。
『……一瞬じゃないよ』
律の心臓の音がする。
当たり前だけど、律はずっと生きていて、心臓だってずっと鳴ってるのに。
何だかすごく久しぶりに聴いた気がして、嬉しいのを通り越して愛しささえ感じる。
「……小鈴」
「ん……? 」
私には心地いいトクトクという音は、本人には恥ずかしいくらい鳴ってるのかも。
引き離すように私の頬を包んだけど、またペタッと密着しても今度はそのままでいてくれた。
「お前のこと好きすぎて……今、したくないかも。これさ、男の勝手で最低な表現かもしれないけど」
――それ、愛してるからだとしか言えない。
『……り……』
『あ。今は、だからな。ずっとは無理だから、そこは勘弁して? 可愛すぎて止まんないって時もあるの。……気持ちは同じなんだけどさ……ごめん。矛盾どころじゃない、それこそ身勝手だけど……本当に好きだから』
伝わったよ。
でも、言葉にはなってくれなくて。
更に胸に顔を沈めたのに、両耳を包まれてしまえば見上げてしまう。
『愛してる。だから、今は我慢させて。ほら、刺激しないの』
『し、してないよ……! 』
慌てる私に笑ったくせに、照れさせておいて上がった体温に困ったように、くしゃっと顔を歪ませた。
その優しさや、本当は堪えてるんだって表情が尊い。
――勝手なことを言うなら、それは愛してるって言うの。
「それ、彼氏!? 」
「……えっ……」
ぼーっとしてた。
それは本当。
「彼氏でしかないよね。そんな密着した写真」
「え、あ……。そう、です」
でも、そこでどもったのは少し嘘。
「えっ、見たい!! 」
「え、いや……だ、ダメです」
本当なら、恥ずかしかったと思う。
それが、意図したものじゃなければ。
「すごいラブラブだったもんね。彼氏、めちゃくちゃ格好よくない? 」
「……ですね」
「えー、見たかった……」
否定することも、隠すこともない。
律は、格好いい彼氏だ。
別に、誰に知られたっていい。
寧ろ、自慢だってできる。
――昼休みの休憩室、吉井くんがそこにいたって。