再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~



「確かに、格好いいですよね。城田さんの彼氏」


伏せたスマホが見えたくせに、上からひょいっと覗き込まれて仰け反る。


「吉井くん、見たことあるの? 」

「え、だって、しょっちゅうお迎えきてるじゃないですか。城田さんに虫が寄ってくるの心配、心配〜!!って感じで。まあ、それ正解。俺、城田さん近辺、飛びまくってるんで」


悪い冗談。
みんな笑ってるなか、私ひとり顔が引きつってる。


「やっぱり、吉井くんは城田さん狙いだよね? バレバレだもん」

「はい、ですよ。というか、隠してない……んじゃなくて、寧ろアピールしてるんですけど。城田さん、つれなくて」

「当たり前でしょ。彼氏いるんだから」


そうだよ。当たり前。
でも、その吉井くんの宣言は――……。


「ですよねー。でも俺、諦め悪いんです。好意があったら、それも当然じゃないですか。だから、城田さんが早く諦めて、なびいてくれたらいいなーっていうか……」


当然。


「……もっと、頑張ろって」


――なんかじゃない。


「あはは、頑張ってー! 」……なんて声が、無責任に遠ざかっていく。


「何ですか、その顔。言いたいことあるなら、どうぞ? 」


言いたいことが何かなんて、そんなの分かってるくせに。
同僚、ほんのちょっと後輩だった吉井くんは、もうそん「年下の男の子」みたいな雰囲気を出してくれない。


「……どういうつもり? 」

「そっちこそ、どういうつもりですか。あんな、見え見えの牽制。俺のは、そんなのしたって無駄ですよーっていうお返し」


にっこり笑って、ごく自然に隣に座った。
そう、それは自然。
同僚と休憩室でランチなんて。


「だって、俺なーんにも嘘吐いてないでしょう? 俺は城田さんが好き。城田さんは彼氏持ち。で、俺は奪ってやろうって頑張る所存。言ったまんまですよ。でも、これで誰に見られてもおかしくない。ね? 」

「そういう問題じゃ……っ……!? 」


手を取られたんだと思った。
違ったことにギクリとしたのを、吉井くんはお見通しだとくすっと笑って。


「ほら、怯えてる。俺にじゃないでしょう? 俺が怖いんだったら、こうして手首取られてからピクンってするとこだよ」


怖くなんかない。
たとえ、耳元で囁かれた言葉が。


「……スマホ、取っただけ。何で怖いの? 優しくて格好いい彼氏なのにね」


図星だったとしても。
ただスマホが吉井くんの手の中にあることが、こんなに胸をざわめかせても。


「俺を守ってくれようとするの、嬉しいですけど。……はい。そんなことしたら、また機嫌損ねて酷いことされかねないからやめて? 」


思ったよりもあっけなく返ってきたスマホを、両手で包む。
同時にほっと息を吐いたのが、たったこれだけで不安だったのをばらしてしまう。


「俺が口説いたの。俺が奪うんですよ。罪悪感なんて要らない。安心して、おいでよ」


――まともだよ、こっち。




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