再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
・・・
「城田さん? どうしたんですか、ボーッとしちゃって。疲れちゃいました? 」
いけない。
元彼のことを、同僚の前で思い出すなんて。
「ね、正解だったでしょう? まだ、荷解きもろくに済んでないのに出勤なんて、疲れるに決まってるじゃないですか。残業なんて、しなくて正解」
「大丈夫なのに……」
しかも、他に思い出なんてたくさんあるはずなのに。
出会いも、初めてのデートも、キスも――それを思い出すなら、まだまともだった頃のことも。
なのに、蘇るのはあの異様で執拗な愛され方ばかり。
(忘れられない? ……ううん、帰ってきたから、思考が行きやすいだけ)
そわそわすることなんてない。
引っ越し大変だろうからって、みんなの気遣いが迷惑だなんてあるはずない。
「だーめですよ。何か、帰りたくない理由でもあるんですか? ……なら、二人で引っ越し祝いでもします? 」
彼と付き合ってた頃、週末は急いで仕事終わらせて。
「それか、引っ越し作業めんどくさいなら、俺……」
こんなふうに、まだ明るいうちに会社の前で待ち合わせた。
「よかったら、手伝いますけど、なんて……」
「……小鈴? 」
――そんな思い出が再び現実になりそうで怖いから、帰りたくなかった。
「……り、つ……」
(……どうして)
こんな偶然ある?
初出勤の日に、昔みたいに再会するなんて。
「おかえり」
「……た、だいま」
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
再会したからって、何だっていうの。
あれから、一度も連絡なんて取ってない。
私が帰ってきたことなんて、社内にスパイでもいない限り知りようがないでしょ?
大体、スパイってなに。
自分の妄想、笑っちゃう。
「……誰ですか? 」
「お疲れ」
“元彼”って言う間はおろか、躊躇うような、“あ……”みたいな音すら出す暇もなかった。
まるで、今日が転勤後初出勤日だってことを知ってたみたいな、それも彼女から事前に聞いてたみたいに自然な「お疲れ」と。
「……っ」
優しい、頭ぽんぽん。
「律……」
「ん? ほら、行こ。初仕事頑張ったご褒美あげる」
彼氏ですって、わざと言葉にしない嫌がらせとアピール。
「失礼します」
絶対に今まで眼中になかったくせに、今更丁寧に挨拶したのだって、そう。
ただ、分からないのは。
私とこの子、どっちに対しての嫌味なの。
「おいでって。ちゃんと二人で過ごすの、三年ぶりだよ? 俺、ちょっともう既に……限界」
耳元で囁くなら、聞こえないようにしてよ。
「……ってか。んなの、とっくに越えてるんですけど。だから、早く行こ? 」
私に聞かせたいの。
それとも、男の子ってだけでただの同僚に聞かせたいの。
「ほーら。晩ごはんくらい奢らせてくれてもいいんじゃない? 三年間、俺を放っといたんだからさ。それくらいさせてよ。限界越えてんの本当だけど、それよりも今はお前と話したい」
事実だけ、本当に耳打ちして。