再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「……疲れたよな。何か食べて帰ろっか」
繋がれた手を無意識にきゅっと握ってしまって、ハッとして緩めると、くすっと笑われてしまった。
「ありがと。でも、律といたいから……よかったら、あの」
答えになってない。
笑われて恥ずかしいけど、それより今度はちゃんと声に出して笑ってくれたことにほっとした。
「なーに。よかったら、なんて。急に借りてきた猫みたいに。まあ、猫みたいに可愛いかもしれないけど、借りてないもん。俺のでしょ」
「……よく、真顔でそんな台詞言えるよね」
律は甘い。
そのどれも、真実。
「真顔で当たり前じゃん。本気で言ってるんだから。お前は可愛いし」
――俺の彼女だから。
囁くところ、違う。
「彼女」とか、小声にならなくてもいい。
他にもっと恥ずかしい台詞、普通のボリュームで言ってたよ。
「ん……」
だから、耳元で聞こえた何てない言葉が呪文になって、私も掠れた声しか出すことができなくなった。
・・・
グラスに注がれたワインが、まだ緩く波打っていた。
「あんま飲むなよ。この前みたいに飲み過ぎたって知らないぞ」
そう言ってから、しまったって顔をしたけど、もう気にならなかった。
「この前も、“知らなかった”でしょ」
「ごめん。もうあんな抱き方は……」
軽く言ったつもりだったのに、まっすぐ受けとめて謝る律が好き。
「知ってるよ」
――律は、私が好きになった人だから。
テーブルの向かいから伸びた手に、そっと重ねる。
すごく視線を感じだけど顔を上げられなくて、代わりにその手を頬へ移動した。
「……っ……」
「あ……」って言おうとしたのを我慢したみたいな、切羽詰まった音が微かに聞こえる。
「知ってるから。大丈夫だから…」
頬を包んでもいなかった手が、すっと撫でた。
自分から触れさせたくせに驚いて、また笑われてしまう。
「言ったよな。可愛いくて止まんない時もあるって。おまけに、俺、今……じゃないわ。結構最初から、ずっと。お前に感じては、自分の都合のいいように取るようにしてる。……今、お前から誘われたって」
頬骨を撫でられるのが、どうしてこうも煽るのだろうと。私も、結構最初から気づいてた。
「律のいいようになんて、自惚れ」
私の皮膚が、神経が、脳が、勝手に反応してるだけだって。
「そっか。……あのさ、分かってんの? 」
色っぽく擦ってたくせに、すぐ下のほっぺたは急に色気のない摘み方。
「それ、俺の都合じゃなくて。流されてるんでもなくて。抵抗できないって言われるより、誘ってるの認められた方が最高に嬉しい。んでー」
なのに私は、それを無視して。
「俺は乗っかる気しかないけど、この先、これ以上どう煽ってくれるわけ? 」
私こそ、都合よく律の何もかもが甘くセクシーだと感じてしまってる。