再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
できるわけない。
そんなことができるなら、もっと楽に吉井くんといられただろう。
「……ですよね。知ってる。城田さんは、そんなことしてくれない。だから、好きになった」
いっそ、振り払ったら。
どっちの身も心配しないで、勇気を出して一か八か強く外へ踏み出したら。
「そんなにあいつが好きな理由って、何ですか。あんな男にあって、俺にはないものってなに? 」
「そういうことじゃ……」
人を好きになるなんて、有無を比べるものじゃない。
私は、「律」という存在自体が好きなんだ。
それは、変わらなかった。
側にいても、離れても、他の誰かといたとしても。
「分かりますよ。理屈じゃない。好きだから好き、としか言いようがない。俺もそうなんです。でも、城田さんの俺に対する感情もそう」
どうして、そこでそんなふうに爽やかに笑ったんだろうと。
何か、私が見逃したものがあったのかと必死に探って思い巡るのを、またクスッと笑われてしまう。
「……嫌いじゃない、ですよね。だって、ほら。見て? 」
何を考えてるのか読もうとして、いつの間にか彼の目をじっと見つめてた。
その目をゆっくり、と吉井くんの視線が誘った先では。
一体いつからなのか、私の手首を捕えていた彼の手がひどく緩んでいた。
「俺はね。めちゃくちゃ勝手だけど、もしかしたら、そう思うことで何とかメンタル保ってるのかもしれないけど」
――理屈じゃない。無意識に、俺のこと、必要としてくれてるって思ってる。
「気がつかなかった、って顔。じゃあ、今からでも突き飛ばしていいですよ。ほら、ちゃんと見てください。今、掴んでるの、指先だけですよ。さすがに、城田さんでも振り払える」
そんなの、最初からだ。
もともと、強い力じゃなかった。
それどころか、見て、気づいてしまった――認めるしかなかった。
吉井くんが言ったみたいな、掴むって表現すら値しないほど緩く優しいのだと。
「絡む」すら、「これ」には強く、タイトすぎる。
「……いいんですか、逃げなくて」
――それは、「繋ぐ」って言うの。
「好きなままでもいいんです」
もう何度目かの猶予、しつこいくらいの確認を置いてもなお、動けなければ。
いつかみたいに抱き締められてしまうかもしれないと怯えたのに、吉井くんはそんなことすら言った。
「俺に、助けさせてくれるだけでいいよ。……って、それができないんでしたね。なら、これでいいじゃないですか」
無理やり言い寄られて、強引に持ってかれて。
でも、同僚だから逃げる場所もなくて、気がついたら。
「……キスされて、あんたは奪われてたんですよ」
あり得ないほど、幾重にもなった意思確認。
――そんなスローな不意打ちが、許されるはずない。