再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~


――ドンッ。

そんな音が、してくれたらよかった。


「……っ」


実際は、上手く飲み込めずに震えた息すら聞こえるくらい、弱々しい拒絶だった。


「城田さ……」


それでも、吉井くんにとっては大きな衝撃だったんだと思う。
よろよろとドアを開けて、どうにか身体が通るくらいの隙間から脱出する私を追えないくらい。

――傷ついた顔してた。

言われたとおり、突き飛ばしただけ。
無理やりキスされそうになって、すんでのところ――ううん、もしかしたら一瞬掠めたのかもしれない――それで、どうにか顔を背けて拒んだだけ。


「……ごめん……」


なのに、どうしてこんなに私が悪いことをした気分になるの。


「ごめんなさ……っ」


なぜって、どうして。


「城田さん? どうしたの、顔、真っ青だよ!? 」


決まってる。
私が、悪いからだ。

頬に触れた吉井くんの指先は震えてた。
無理やりキスなんて言えないくらい、優しさすら感じられないほど、そっとすぎた。


「気分悪いなら、帰った方がいいよ。大丈夫? 一人で帰れないなら……」

「……っ、帰ります。帰っていいですか」


廊下でせっかく駆け寄ってくれたのに、つい噛みつくように被せてしまった。


「うん。私から言っとくね。気をつけて」

「……すみません……」


元気じゃないかと怪しまれることもなかった。
ただの善意が、余計に胸を締めつける。
吉井くんが出てくる様子はない。
こっちの声が聞こえたかもしれないのに、しばらくそこに留まってくれようとするのは。
それが優しさでも、気遣いでも。
たとえ、勝手な失望感だったとしても、痛んでしまう私の胸こそ自分勝手だ。


(……足が……)


ガクガクしてる。
だから、駆けつけてくれたんだ。
今更、帰りを心配してくれた理由に気づいて足を叩いてみても、ちっとも止まってくれない。
仕方ない、タクシーを呼ぼう。
そう思って、どうにか部屋に戻ってデスクを片づけると、スマホを手にして。


「……あ……」


『お疲れ。無理するなよ。俺は隙見てサボってるから、一緒にサボれそうな時は教えて』


律。

このタイミングでのLINEに、思わず辺りをきょろきょろしてしまう。
お疲れ、と返せば、律がどんな反応するか、想像ついたくせに。


『どうした? お前のことだから、昼休みでもないのにスマホ弄ってるなんて、ただのサボりじゃないだろ。何があった? 』


サボろうって言ったくせに。
何「か」あった? じゃなかったことが、律がどれだけ私を分かってるのかが伝わってきて、少し笑えて泣きたくなる。


『早退することにした』

『分かった。動かないで待ってて』


「後で話すね」や「仕事終わったら会える? 」は、少し迷った末、入れなかったのに。
すぐにそう返ってきたということは、もう律も早退する準備をしてしまってる。
申し訳ないとは思いながらも、止める気にはなれなかった。


「小鈴……! 」


タクシーで会社の側まで乗りつけて、ドアから飛び出るように現れた律に抱きしめられてやっと。
ほっと息を吐いた、自分を認めたら。



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