再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
・・・
「疲れてるとは思うけど、元気そうでよかった。また小鈴の顔見れて嬉しいよ」
二人でよく行ったご飯屋さん。
正確にはきっと私が好きなだけで、律はいつも私に合わせてくれていた。
「律も……」
「俺? 俺は結構参ってたよ。小鈴といない俺なんて、ただのクズだって自覚あるし」
笑えない。
否定も肯定もできなくて、目の前の料理を取り分けた。
そこで笑ったのは律の方。
わざとらしいよね。
だって、私はこういうのが下手くそで、いつも彼がやってくれてたから。
でも、だから伝わるよね?
「正直に答えて。むこうで、男いた? 」
早く、帰りたいって。
「……彼氏がいたこともあ」
「いいんだよー、気にしないで。三年だもん、浮気するなって方が無理だよな。俺も小鈴裏切ったことあって……本当にごめん。お前がいなくなったの辛くて……でも、全然だめだった。小鈴じゃないともうダメなんだって、思い知った」
聞いておきながら遮って、妙な告白をされる。
そっちの方こそ、気にしなくていい。
それは浮気じゃなくて、ものすごく普通のことだ。
だって、私たちは三年前に――……。
「でも、ってことは続いてはない……んだよな。さっきの男も、明らかにお前のこと狙ってた。再会できたの、もちろんすごい嬉しいけど……相変わらず可愛いくて心配になる」
「考えすぎだよ。そんなの浮気じゃなくて、私たち……」
――終わって。
「引っ越し作業手伝うって、部屋に上げろってことじゃん。好意と下心ないと言わないよ、そんなこと」
「そんなこと言った? 」
「言ってたよ。小鈴はもう……。あいつはご愁傷さまだけど、ますます心配になるじゃん」
顔、隠してたのに。
垂れてた髪を前からそっと掬われて、耳に掛けられる。
掻き上げられた拍子に指が耳を掠めて、ゾクリとして身を捩った。
「お前、やっぱすごい可愛いわ。一人になったら、そりゃ男寄るの仕方ないよ。小鈴のせいじゃないって、ちゃんと分かってるから」
「……いや、だから……」
律は、いろいろ見えてなさすぎる。
可愛いって、付き合ってる時も散々言ってくれた。
異常なくらい、過保護なのも変わらない。
そのくせ、自分は私の心も身体も優しく甘く壊してしまう――……。
「俺も。やればやるだけ、お前じゃないって感じるだけなのにね。怒っていいよ」
「……怒るとこな」
い、のに、すぐに話が変わる。
「そいつと続かなったの、どうして? 何か酷いことされた? 」
「し、しないよ! ただ普通に……」
元彼が誰とどう付き合おうが、そんなの自由だ。
私だって、そう。
なのに即答したのは、彼の目も声も一気に翳りを帯びて怖かったから。
「普通? つまり、そこまで盛り上がらなかったってこと? ん……俺も。よかった、同じで嬉しい」
「だ、だから律……! 少しは話を……」
大きな声でできる話題じゃない。
でも、小声だって、なかなか出てくれなかった。
三年ぶりのこの感じ――律の私に対する甘い視線と声、笑い方。
「聞いてるよ。小鈴の声も、話も。ちゃーんと。この声……ほんと好き。それこそ普通に話してるだけなのに、もっと高い声も思い出しちゃう」
それとは、正反対の。
「それ聞いたやつ、お前にどんなことしたの。続いてんのは絶対嫌だし、許せないけど……あ、小鈴じゃないよ。相手の男ね。どんなやつだか知んないけど、こんな素直で可愛い子に雑なことして、喜ばせてやれないっていうのも腹立つんだよな」
「っっ……な、に言ってんの……!? 」
「分かってる。お前がされてるの想像するだけで、どう殺してやろうか考えるのにさ。すごい矛盾」
どこを見てるのか――無表情で何の感情もなく見えて聞こえる一方で、本当に相手を探し当てて見つけたんじゃないかっていうくらい、怒りに満ちた瞳に震えてしまう。
「ごめん。そんな顔しないで。言ったでしょ。お前は悪くない。怒ってなんかないよ。仕方ないって。だって、たまたま転勤になってさ」
――嫌嫌、離れたんだもんな。