再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「……っ、城田さ……」
「あ、おはよ! 迷惑かけてごめん」
吉井くんの出社も早くてギクリとしたけど、「自然に」を被せて挨拶した。
普段よりも明るすぎたかもしれないことを除けば、上出来だと思う。
気にしてくれたんだろうし、心配もしてくれてるんだと分かってる。
でも、もうこれ以上の接触はお互いメリットがないばかりか悪影響だ。
――そんなの、最初からだった。
なのに、私の曖昧な態度のせいで、ここまで拗れてしまった。
言い訳が許されるなら、こっちに帰ってきたばかりの頃は、まだ律とよりを戻すつもりはなかったから――……。
(ううん、やっぱりダメ)
言い訳のしようがない。
律とまた付き合うつもりがなくったって、律の目の届く範囲で誰かと付き合うのは危険だ。
たとえそれが、かなり広範囲に及ぶとしても。
「おはよう、早いな。城田さん、大丈夫? 具合悪くなったら、すぐ言ってくれていいから」
「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」
吉井くんがどう話そうか思案してるのを横目で見ながら、ちょうど部長が出社してくれてほっとした。
「よかった。実は今日、新規開拓先の方が来られる予定でね。できれば、一番業務把握してる城田さんにも出席してもらえたらと思ってたんだけど……って言ったら、強制だよな。申し訳ない」
「私は構いませんけど……」
もともと、ほぼ仮病だ。
しきりに謝ってもらうのは、こちらこそ申し訳ない。
「ごめん。うちの営業がずっと口説いてた先でさ。しかも、本来はこっちから伺うべきなのに、ちょうど近くに用があるからと言われて。突っ込まれて固まるのだけは避けたくて……いや、普段から頼りっぱなしだから、こういうことに」
それは失敗できない。
逆に私でいいんだろうかと不安になるけど、断れる理由も特にない。
「助かった……! 吉井くんもサポートして。大丈夫とは思うけど、失礼のないようにな」
「失礼って。大丈夫ですよ。さすがに、新人じゃないんだから」
わざとらしく拗ねてみせたのも、私の為なんだろうな。
大丈夫。私も笑えてる。
何もなかった。
甘い視線に気づかないふりをすれば、ただの先輩後輩そのもの。
・・・
律の部屋から出社したことは、ちょっとよかったかも。
彼氏の部屋に置いてある服は、それなりにちゃんとしている。
それにしても、そんな重要取引先との会議だなんて。
一体、どんな人が来るのやら――……。
「こんにちは。お世話になります」
「こちらこそ。ご足労いただいて」
緊張して、何となく落ちていた目線を上げるのを躊躇する。
聞こえたのが、勝手な想像と偏見よりも若い声だったからじゃない。
「あ、やっぱりいた。無理するなって言ったのに、聞かないんだからな。知ってたし、顔見れて嬉しいけど」
「……律……っ」
ハッと口を押さえても、もう遅い。
部長の目が、私と律の間を忙しなく行ったり来たりしてるし。
「お疲れ。……大丈夫か? 熱、上がってない? 」
無意味に私の額に触れるのに、もし多大な意味があるのだとしたら。
――私の後ろの、突き刺さるような視線への対峙。