再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「座ってて」
てっきり、一緒にベッドに腰を下ろすものだと思ってた私は、どんな顔をしたの。
顔に出やすいって律は言うけど、そう思うのは律くらいのものだって知らないのかな。
私だって大人で、作り笑顔も、何とも思ってないのを装った無表情だって、それなりに得意だ。
それなのに律は、大人しく座った私の頭を撫でて「だから、違うって」って笑う。
置いてあった鞄を漁るのを、どこを見ていいか分からずに自分の膝を見つめるしかない。
「え……? 」
律が戻ってきた時は、もう少し上を向くはずだった。
でも、私の正面、膝のすぐそこまで来た瞬間、律は跪いて。
「……ずっと、渡したかった」
何かを握らせた手をそのまま包み、口づけた。
(……なにか……)
それが何だか分かってるから、混乱するんだ。
この手の中にあるものを想像して、自分の薬指なんかに目が行くくせに、知らないふりをするのは卑怯だよ。
「りつ……」
「受け取って。着けなくてもいい……は嘘。俺といない時は外しててもいいから……頼むから、受け取ってほしい……じゃないな」
「くそ」なんて悪態吐くの、珍しい。
上手く言えなくてイライラするって、髪を掻き上げるのも。
「受け取って、ください。……本当はずっと、そう言いたかったんだ」
お願い、立ち上がって。
そう思うのも本当だけど、ドキドキして何も言えなくて、幸せを堪能しようとする自分もいる。
「俺に着けさせてくれる……? 」
もう頷くこともできなくて、掠れた音が唇から漏れた。
ケースを開ける音がして、目を瞑る私はどうかしてるのかな。
「……お前、痩せたね。ごめん、ちょっと大きいな。サイズ直して……」
「このままがいい」
つまり、これを買ったのは三年よりも前。
律が渡してくれる機会を、私が与えてあげなかった。
「ありがと。今度は、ちゃんとぴったりのやるから。失くしてもいいから、持ってて」
「そんな……」
これで十分。でも、律は首を振って。
「これは、三年前の気持ち。何度も渡そうとしたけど……できなかった。さすがにそれは、酷すぎるって。あんな状態のお前に渡すのは、あんまりだって……正気のお前に受け取ってほしい、そう思いながら……」
「律」
受け取ったよ。
だから、もう。
「……来て……」
立ち上がって、側に来て。
ベッドの上で、キスしてほしい。
「ほら。……やっぱ、お前の方でしょ」
誘っておいて震えるのは、嬉しいからだ。
隣に座って、腰を抱いて。
「指輪填めてるお前に、そんなもの欲しそうにされたら理性飛ぶ……」
待ち望んだキスの前に、私の理性は既に行方知らずだ。
「そんな顔見たら……三年前のだけじゃなくて、早く今の分、もう一個着けさせたくなるだろ」
右手も、左手も、唇までも。
誓われて、乞われて、繋がって。
それでどうして、ベッドに沈まずにいられるだろう。
(……昔よりも好き、ってこと……)
律の腕も、ベッドも。
今はこんなにも、ありもしない底へと心地よく誘うのに。