再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
何度這いつくばって、床を探したか分からない。
周りの人に聞いてみたけど、指輪を見かけた人は誰もいなかった。
それもそうだと思う。だって、ちゃんと引き出しに入れたんだから。
ずっと探していたかったけど、そうもいかず。
「城田さん、資料準備できてるのかな……」
そう言われているのが聞こえてからは、慌てて何事もなかったように仕事を始めたけど。
(ちゃんと仕舞ったはずなのに、どうして……)
大切にしたいと思ったのに、ちっともできてなかった。
大雑把だから、こんなことになるんだ。
急いでたにしたって、せめて鍵くらい掛けておけば――……。
(……何考えてるの)
誰かが盗むわけもないのに。
他人のアクセサリーなんて、誰も欲しがらないでしょ。
いくら律が人気だからって、そんなことする人がいるはずない。
『城田さん、資料準備……』
(馬鹿、考えすぎ)
第一それは、仕事してなかった自分が悪い。
律みたいに目立つタイプの格好いい彼氏がいるわりに、平穏な生活を送れてる方だと思う。
「……帰らないんですか」
どうにか嫌な妄想を滅しても、何も着けてない指じゃ帰ることができなかった。
吉井くんの視線を感じつつも、どうしても目は床に行ってしまっていたけど。
「……帰る……」
電話。
このタイミングを狙ったかのような着信は、絶対に律。
そう思って、すぐに電話に出た。
『お疲れ。ごめん、ちょっと遅くなりそう。先に帰ってるなら、気をつけて……』
「そっちに行く。……ごめん、待っててもいいかな。近くで時間潰してるから、気にしないで」
律の職場がどこだか、よく分からないのに。
でも、一刻も早く会いたい。
会って、謝らなくちゃ。
『……分かった。最寄り……な。分かる? 分かんなくなったら、すぐ連絡して。何も気にしなくて大丈夫だから。遅くなってごめんな』
「ううん。私こそ、押しかけてごめん……。急がなくていいから」
吉井くんに目礼して、外に出た。
エレベーターの「閉」を押したところで、泣きそうになるのをぐっと堪える。
(……何やってるんだろう……)
あんなこと言ったら、律が無理して早く終わらせようとするのは分かってることなのに。
会うのが怖いくせに、律が怒らないことを知っていて早く謝ってしまいたいなんて。
それでも、謝らなくちゃ。
それにきっと、会った瞬間バレてしまう。
・・・
都合よく、律の会社が入っているビルの近くにカフェがあった。
席に着いても、頼んだコーヒーはちっとも減らない。
律は笑って許してくれる。
そう思えば思うほど確信に変わり、余計に悲しかった。
たぶん実際は、私がカフェに入ってすぐだったと思う。
すごく急いでるのが伝わる歩き方で、ふと私以外にも数人顔を上げて。
律を見てそのまま釘付けになったのも、きっと私だけじゃないと思う。
「ごめん、お待たせ」
思わず立ち上がる前に、律はここに気づいてたみたいだった。
迷わずに私のところに来てくれて、それだけで涙に滲む。
「少し、ゆっくりしてく? 」
コーヒーカップの残量を見て、そう言ってくれるのも優しい。
「じゃ、行こっか。……小鈴」
いじけた子どもみたいに無言で首を振る私に、何も尋ねないのも。
「大丈夫だから。お前が心配すること、何もないからな」
そう言って、手を引っ張るんじゃなくて。
指輪のない私の手に、袖に掴まらせてくれたのも。