再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~





「俺が怒ったりするわけないよ。不安に思うことも、怖がることもなーんにもない。小鈴がいてくれるのに、俺は幸せしかないんだから」


「帰ってから、ちゃんと聞くけど」車に乗った途端そう前置きして、何度も心配いらないって言ってくれた。
必要以上に手に触れないあたり、もうとっくに気づいてるんだ。


「……効かないか。俺さ、今すごい嬉しいの。それだけ、分かってて」


聞き間違いか、それともやっぱり律は何か勘違いしてるのかと顔を上げると。


「ほんと。な、だから、そんな顔しないで」


「やっと、こっち見た」そう笑って。
「分かってる」方だって説明するみたいに、今度は手を重ねて――もう片方で私の髪を耳へと掛けると、ゆっくりとキスを――……。


「……あ……」


――しようとした律が、ちょっと身体を引いたのを感じて目を開けると、車のすぐ側を歩いていた通行人とばっちり目が合った。


「ね。やっぱ、早く帰った方がよさげ」


苦笑して、それ以上は何も言わないでくれた。
それだってきっと、いざとなると私が言い出せないのを見越したからだ。





・・・




「小鈴」


部屋に着くとすぐに、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「無理に言わなくてもいい。分かってるから。本当に、あんなの気にすることない……」


不思議だ。
何も言わなくても大丈夫って言われると、すごい勢いで首を振った後、自然と唇が開いた。


「本当にごめんなさい……! 落としそうになって、引き出しに入れたはずなのに、ミーティングから戻ったら……たぶん、入れたつもりが入ってなくて、どこかに転がったんだと思うんだけど……」


せめてそこだけは、甘えちゃいけない。
だって、「あんなの」じゃないもん。


「せっかくくれたのに、大事に扱わなくてごめ……」


でも、どうしても「指輪」だとは言えなかった。
律の気持ちまで雑に扱ってしまったみたいで、何度自分を責めても足りない。


「大事にしてくれたんだろ。落としたってことは、それまでずっと着けててくれたってことなんだから」


――なのに。


「言ったでしょ。俺、嬉しいんだって。幸せだって。それが会社だったんなら、家に置いてこなかったってことだし。つまり、吉井くんの前でも着けててくれてたんだよな。それ、めちゃくちゃ嬉しいプラス、ものすごい優越感だろ。最高なんだけど」


そんなふうに優しく言ってくれた後、頭を撫でながら冗談ぽく冗談にならないことを言ったりするから。


「大きいの知ってて渡したの、俺だし。お前があれからずっと着けてたのかなって思うだけで、最高に嬉しい。だから、全然泣くことないって」

「サイズ直さなくていいって言ったの、わたし……」


唇にそっと親指が当てられて、何も言えなくなる。
照れたのも一瞬で、「そういえば、今日は化粧直しする暇もなかった」とか、「そうじゃなくて、彼氏に会う前に思いつかない自分ってどうなんだろ」とか、指輪に直接関係ないことまで自己嫌悪に導いてしまう。


「小鈴はさ、素直でいいこすぎるの。俺が、慰める為に言ってるって思ってるだろ。違うよ。……今、ラッキーとすら思ってる」


三年越しであげたばかりで失くされるなんて、どうしてそれでラッキーに――……。


「これで、もう一回あげられる。言ったよな。あれは、三年前の分。今のお前に対しての気持ちとか、誓いとか……そういうの、まだ形にできてなかったから。三年前のものを受け取ってもらえたばっかりなのに、またその機会がきて嬉しい」


そんなの、ラッキーでも何でもない。
形にしてくれようとするのは、律の優しさや私への甘さ、誠実さからできている。


「今度はさ、ぴったりにしよ。一緒に買いに行けばいいってだけ。な? 」

「……またお金使わせる……」

「またそれ。もー、小鈴は……」


そんな返し方しかできないんだよ。
だって、やっぱりまだ悲しいし、自分に怒りしかない。
でもその分律の優しさが沁みて、泣くのを我慢すると、そんな可愛いくないことしか言えなくなる。


「そんなに罪悪感あるなら、こうしよ。……俺を、もっとラッキーにしてよ」

「……どうやって? 」


こんなにしてくれる彼氏に、私、そもそも何も返せてないのに。


「ん? こう、やって……」


突然大きな手に両頬を包まれて目を閉じると、「だーめ」って上向かせて。


「俺のこと見て、好きって言って……俺をもっと、幸せにして」


(……そんなこと……)


本当に、全然幸運なんかじゃないよ。


「……好き……。律、ありがと……」


ただの、明確な事実。


「……ほら。めちゃくちゃラッキーじゃん……」


何度も目を瞑りそうになるのは、それが難しいことだからじゃなくて。
愛しいが全面に出た視線、声、触れ方。すべてにおいて熱い甘さに瞼が落ちてしまうの。




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