再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
律 Side
まぁ、想定の範囲内のことが起きた。
もちろん、小鈴が指輪を失くしたことじゃない。
そうじゃなくて、あり得るなというか、寧ろやってくれたら都合がいいとすら思ってたのは。
「犯人、君でしょ。返してくれる? 大方、今も持ってたりするんじゃない」
想像どおりのことをしてくれる、可愛いボーヤ。
「……なんで」
仕事で寄ったある日、素直に呼び出しに応じてくれちゃったりして。
しかも、ご丁寧に空いてる会議室に入れてくれるなんて、吉井くんは真面目だ。
「小鈴は言わないよ。チラッとは考えたかもしれないけど、あいつは俺にもそんなこと言わない。鈍いようで繊細で、大雑把だけど察せる子だから」
小鈴に見つからないように吉井を呼び出すのは、少し苦労したけど。
なぜだか認知度が高いおかげで、同じ部署らしい奴が声を掛けてくれて助かった。
「小鈴には内緒で」をどれだけ守ってくれるかは、微妙なところだが。
「言ったでしょ。分かるんだよ、俺もそうだから。でも、君は俺と違って捨てれないタイプと見た。だから、はい。返して」
思ったとおり、渋々ながらも裏返した手に載せられた指輪を見て、微笑むしかない。
「いろいろ、ありがとー」
「……何だよ、いろいろって」
ああ、なんでこう可愛い反応が返ってくるんだろうな。
もちろん恋愛対象とかそういうんじゃないが、何でもこっちの思惑どおりに行動してくれるのは、ある意味どこか愛しさすら感じる。
「そんなこと、なんでわざわざ聞きたがるかな。君にとって胸糞でしかないでしょ。ま、いいけど。……俺も、吉井くんに聞かせて反応楽しみたいしね? 」
――だってほら。勝手に思いどおりに動いてくれるって、楽しいだろ?
「君がいろいろ悶々悩んだ挙句、多々やらかしてくれるおかげで、俺の株が上がるし。他の男が嫉妬でのたうちまわってる間にさ、俺はその子の最高に可愛いとこ見れてるから……ほんと、吉井くん様々」
(手が出んの早。で、殴んないのか。……ああ、そう)
――少し、小鈴に似てんのかも。
だから、胸ぐら掴まれても平気……のわけないか。
「律、律って。きゅって締めつけられながらあの声で呼ばれたら、まじ脳溶ける……って、教えてあげるのは好きだけど、もちろんお試しさせるのは無理……っ痛て……痛いなー、もう」
それでも、男に掴まれるのは可愛い彼女にやられるのとは全く違うに決まってるけど。
「……今、どっちにキレたの? 彼氏持ちの好きな子に手出されてるって、そんな当たり前のこと? ……もしかして、お試しさせてもらえないことだったりして」
(絶対させるかよ。酷いことも、優しいことも一切な)
「……っ」
更にぐっと掴まれ、さすがに殴られるかなと悠長に考えてた時。
「……律……!? 」
ドアがバンッと開いて、小鈴が乗り込んできた。
「あ、お疲れ。あらら、結構お供連れて来ちゃったね」
「え!? 」
開いてるドアの隙間から、何事かと覗き込んでる奴らの中には、二人の上司もいるような。
「……ってことで。そろそろ、離してくれます? さすがに、彼女の前でこれは格好つかないので」
慌てて小鈴がドアを閉めてくれたけど、吉井くんに手遅れになってなきゃいいけど。
「……律……」
怯んだ瞬間に振り払うと、小鈴に「大丈夫」と笑って。
「ね。堪んないのわかるでしょ。あの声で呼ばれたら」
カッと赤くなったけど、さっきの怒りからくる紅潮とは違う染まり方。
それを見て、「ああ、可愛いボーヤだなー」と暢気に思えるのは。
「迷惑かけてごめん。……大丈夫だよ」
もっとずっと、可愛い可愛い彼女が俺の腕にいてくれるからだ。
誰が見ていようと、構わずに恋人かそれ以上の関係じゃないとあり得ない潤んだ目で見上げながら。
(……可愛い。本当に可愛いくて)
どう縛りつけたら、彼女が怖くないのか。
安心できるのか。喜んでくれるのか。
自分からくっついて、離れないでいてくれるのか。
――悩むのが、まじ楽しすぎる。