再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~










律と出掛けるのは、もちろん楽しい。
でも、何となく居心地が悪くなるのも、正直なところ。


(……歩いただけで、視線がすごい……)


どこを歩いても、女の子からの視線にぶつかる。
未だに慣れはしないけど、それは何とか感覚を取り戻してきた。
とはいえこれは、未経験だ。


「なーんで、そんな微妙な顔してるの」


――指輪を買ってもらうのを、チラチラ、結構じーっと他の女性に注目されるなんて。


「り、律こそ。なんで、律がニヤニヤしてるの……」


どのデザインも素敵だったのもあるし、好きな人から指輪を貰えるなんて、それだけで幸せなのもある。
律のセンスがいいこともあって、任せきりで。
いろんな意味で緊張してる私は、ちっとも選べなかった。


「ん? だって、小鈴が受け取ってくれたんだもん。……幸せすぎてニヤニヤするの、当たり前でしょ」

「…………」


嘘。
ニヤニヤなんていう表現は、今の律には似合わない。
そんなのじゃなくて、本当に嬉しくて楽しくて仕方ないって無邪気な笑顔――……。


「……気に入らなかった? それとも、本当は嫌だった……? 」


それも、厳密には嘘だ。
恋人に向けた、甘い甘い幸せいっぱいの笑顔だったのに。
向けられた当の彼女が、翳らせてしまうことなんかなかったのに。


「ううん。緊張しちゃっただけ。……あと、嫉妬」

「誰によ。小鈴が嫉妬しなきゃいけないようなやつ、一人も登場してないでしょ」


また笑ってくれたけど、そこには最初の喜びよりもほっとしたって感じの方が強くなってしまった。


(伝えるのが下手なのは、仕方ないとしても。それで甘えてばかりはよくない。下手なりに努力しようって思ったのに)


「小鈴……? 」


店を出て、思わず一瞬立ち止まっただけ。
隣を歩いていた律との距離なんて一歩分もないと思うのに、すぐに気づいてくれる。


「律がモテるのなんて分かってたし、注目浴びるのはいつものことなのに……なんか……ごめん、違うの。私が勝手に自信失くしてるだけ……」


いろいろ、自分の人生とは思えないことが起きすぎた。
だから、もしかして結婚前の女性が感じやすい不安とか、誰しもあり得る感情に対応できないのかも。


(……って、馬鹿……)


結婚とか、飛躍しすぎ。
言われてもないワードを追加して、勝手に補完しようとしてる。


「なんで、そんな落ち込み方するかな。許しを乞うのも、お願いするのも俺の方でしょ。仮に誰かが見てたって、俺が好きで好きで堪らなくて、お前を口説いてるようにしか見えないよ。だって、事実だからな」

「……そういうんじゃなくて」


ああ、そっか。
羨望の目で見られるのは慣れてるけど、「なんでこの人なんだろう」って思われてるだろうことが悲しいんだ。


「吉井くんとかもいるくせに、何言ってんだか。俺が一刻も早く指輪着けさせたい理由、何だと思う? 」


(……溺愛されてるからって、気を抜きすぎないようにしよう)


「俺がもう待てないのと……お前が、可愛いすぎるからでしょ」


そんな劣等感、律はとっくに気づいてる。
いつも、そうだった。
きっと、律が周りに大袈裟なくらいアピールするようになったのは、私を不安がらせない為。


「顔ね。まあ、利用したことがないとは言わないけど。……お前はそうでもない?」

「……好き」


確かに、律に初めて声を掛けられた時は、ドキドキして何話したかもよく覚えてないほどだったけど。


「そりゃ、よかった。まだ使えそうだな」

「顔だけじゃないよ……! 」


冗談が多いけど、私が気を遣わないようにだったりとか。
ちょっとしたことで、嬉しそうに笑ってくれたりとか。
真剣に伝える時は、きっと意識していつも以上に優しいトーンで話してくれたりとか。


「……律の格好良さは、私が一番知ってると思う……」


そういうの、律は私に分かりやすく表現してくれる。


「……ありがとう。今度こそ、本当に絶対大切に……っ」


「好き」では伝えきれない、「好き」という感情を。


「……車乗って」


でも、律にしては強引に手を引かれ、停めてあった車に押し込むように助手席に乗せられた。


「言ったろ。指輪なんか、気にしなくていい」


もう、誰の目も気にならなかった。


「あんなの、ただの目印だよ。俺以外の男が、お前の可愛いとこ見れませんって印つけときたいって最低なエゴの具現化。そんな醜いものの為に可愛いことされたら、俺の頭、もっとおかしくなるから……」


訳分からないし、めちゃくちゃだし、同意できないけど。


「私には綺麗だし、憧れてたのそのものだよ」


座席が律の体重で少し軋み、目を瞑る。


(私が着けていたいんだ)


――その、律の印ってものを。








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