再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~











「ずっといる彼氏とのランチで、そんな意気込まなくても」


せめて、ランチくらいは奢らせてと頼み込んで入ったお店で、私はものすごい顔をしてるらしい。


「……そんなに変な顔してる? 」

「いや? 可愛いよ。必要もないのに、周りに威嚇しまくってる彼女は」


それも、律を見てる人に対して。


「……が、頑張ろうと思っただけなんだけど……」


オドオドするのはやめようって。
卑屈になることもないよねって、決意したつもり……だったんだけども。
くくっと笑われて、いつの間にか一人で戦闘モードだったのが恥ずかしい。


「可愛いから、ちょっと放ってみたけど。それくらいにしといたら。疲れるでしょ」

「だ、だって……」


食事中も、肩が張っちゃうし。
視線を気のせいだとはまったく思えないけど、いちいち反応してたってきりがない。
大体、乗り込んで来られたのでもないし、見るだけなら自由だ。
格好いい人を見かけたら、つい目がいくのも仕方ないことだし。


「まったく」


というか、律は「家でゆっくりしよっか」って申し出てくれていた。
それは絶対、周りを気にしてしまう私の為だって分かってたから。
せっかくのデートの帰り、今日を含めていつも贈り物をしてくれる彼氏に、ランチくらい奢りたいなって気持ちもあった。
でもそれも、結局は私の意見に律が乗ってくれたわけで。
つまり、律の為にもお返しにすら程遠くて、優しい彼氏は付き合ってくれただけ。


「そういうのは、俺がやるからいいんだよ。お前が不安になるんなら、それが足りてなかったってことだし」

「違うよ……! 律は、本当に私の為にたくさんしてくれて……なのに」


律を喜ばせたいって、私の自己満足に付き合わせてしまってる。


「ばーか。……小鈴が俺にくれるものは、こんなものじゃないの。それをお前が、してくれたことにカウントしてないだけ。それに」


頬に手が伸びてきて、息を呑んだのは私だったのかな。
あまりにか細くて、他の女の子だったかもしれない。


「お前が一生懸命、俺のこと考えてくれるのが嬉しすぎる。そんな可愛いとこ見れるなら、大抵のことは聞いてあげれるし、そもそもお前のお願いってちっちゃくて……俺にしたら、そんなことでそんなに喜んでくれたら、次はもっとしてあげたいって思うしさ」


いつもなら、羞恥に耐えられなかったと思う。
でも、今の私は、律の体温に触れて「幸せな彼女」の気分に浸っていたくて。
恐る恐るその指に重ねたら、少し驚いた後そっと……くるんと指先が繋がれた。


「些細なことだから、カウントしてないんだよ」

「それ、本気? ……結構すごいこと、してくれてると思うけど」


耳打ちされて、特に心当たりがないのに瞬時に身体は反応して熱を上げる。
思わず周りを見渡そうとしたけど、繋がれた指先に引かれて上手くいかなかった。


「ほ、本気っていうか、ほんと! 他に何かないの……」

「他、な。んー、たとえば、吉井くんの前で、“律、大好き”ってキスしてくれるとか? 」


不器用に、大きなマグを手繰り寄せて片手で口に運ぶと、ものすごく嬉しそう。


「だめ? やっぱ、ダメか。じゃあ……さ。本当に嫌じゃなかったらでいいから。無理に進むより、ゆっくりでもちゃんとお前の気持ち優先してちょっとずつ進みたいと思ってるけど、もしお前の心の準備ができたら……」


――ごっこじゃなくて、本当にプロポーズさせて。


「返事が“はい”になるまで待つし、その為なら何だってする。だから、その時が来たら、こっそり教えて。もっと、最高に喜んでもらえるプロポーズにしたいから」


飲もうとしたコーヒーが、上手く喉に通らない。
カップが震えて波打った液体が頬にかかって、笑って拭ってくれた。


「ごめん。狡いよな。お前は純粋に俺の為を思ってくれてるのに。確実に“はい”の時にしたいなんて、自分勝手……」

「……はい」


私だって、狡い。
純粋なんて、実際の私自身からはきっとかけ離れている。


「だよな。だから、お前も本当に気にしないで……」

「違うよ。決心もできてないのに“お願いします”なんて言わない」


もう、その時は来てる。


「律じゃなきゃ、言わない……」


律だったら、「はい」なんだ。


「……律、大好き……」


それは、些細ではないけど。
今、ちょっと。

ちゃんと伝えられた気がする。








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