再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「……あ」
律のマンションに着いてドアを閉めたところで、私を先に上がらせた律が背中で言った。
「どうかした? 」
「んー、帰りにワイン買いに寄ろうと思ってたの忘れてた。ちょっと行ってくる」
「ビールあったよ? 」
「それだと、小鈴が飲めないでしょ」
着いたばかりだし、わざわざ行ってもらうの悪い。
「可愛いことされすぎて、忘れてたわ。すぐ戻るよ」
「別に、私は飲まなくても……。それか、私行こうか? 」
自分の分くらい、どこかその辺のコンビニでも行けるのに。
「ゆっくりしたいからさ。ごめん。お前は、先に準備しててくれない? 」
「……それは優しさかな、嫌味かな……」
準備なんて、ほとんどすることない。
律から受け取った袋には、帰り道でテイクアウトした美味しい料理がたくさん入ってるんですが。
「どっちでもなく、言葉どおりだって。早いとこ、いちゃいちゃしたいからお願い。な? 」
「だ、だったら行かなくても……」
言われてすぐ、「いちゃいちゃ」に過剰反応した指が、もう律の袖を摘まんでる。
「もう、小鈴ちゃんは。俺にこんなとこで襲わせたいの? それとも、最近営みに刺激が足りなかっ……」
「既に刺激過多だから!! いってらっしゃい……!! 」
パッと指を離した指を、逆に捕まえられ。
まだ靴を履いたままの律に、下から囚われる。
「いってきます。あ、今日荷物とか届く予定ないから、誰来ても出なくていいよ。危ないから」
「こ、子どもじゃないんだから、大丈夫だよ」
キスの後で、そんなこと言うの禁止。
そう言っておきながら、この過保護さが子ども扱いとは思えなくなって。
「いってきます」を、脳がより意味のあるものにしたがってしまう。
・・・
「何だよ、さっきからじーっと見て」
片付けもほぼ終わったのに、私はまだグラスにワインをキープしてる。
「……このイケメンは、何で私を好きになったんだろう……」
「……もう、そんな酔ってんの? 」
若干というか、わりとしっかり引いたのかもしれない。
律はワインのボトルを怪訝そうに見て、何度もアルコール度数を確認している。
「すごく美味しい料理を、並べるだけでベタ褒めしてくれるし。そもそもそれ、律が買ってくれたし。取り分け方すらグチャッとしてて、律の装った方が見栄えよくて。結局後は、全部律がやったようなもんで……」
「あのね、酔っぱらいちゃん。並べるのも、結構面倒だろ。作るのは更に。ベタ褒めも何も、ありがとって言っただけじゃん」
「……ありがとって、なでなでした……」
酔ってない。
ちっとも足りなくてグラスに伸びた手が、あっさり捕まってしまった。
「そりゃ、したけどさ。だーめ。もうおしまい。緊張すると飲みたがって、量はそうでもないのに速攻酔うの変わんないね。……あの時も……」
「しかも、ワインまだあったのに……」
全然酔ってない。
そう、あの後冷蔵庫見たら、まだワイン残ってたのだって覚えてる――……。
「あ、やっぱバレてたか。そうだよ。ワインはついでなの。メインの目的はこっち」
立ち上がってワインを冷蔵庫に仕舞ったと思ったら、奥に引っ込んで、戻った律は。
「……気持ち、変わってないといいけど。やっぱ怖くなってたら、それでもいい。無理しないで教えて。でも、もし、受け入れてくれるなら……俺とのこと、もう少し進ませてほしい」
可愛いブーケを持って。
「愛してる。結婚してくださいって、今言ったら……どこまで許してもらえる? 」
もう一度跪いて、プロポーズしてくれた。