再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
既に答えた「はい」も「お願いします」も、もしかしたらそれだけで、返事として成り立っていたかもしれないのに。
「違約金がどうのって言ってたけどさ。ほぼほぼ、こっちにいるんだから、毎月払う方が勿体なくない……って、違うから。こんなプロポーズしたかったんじゃないのに……」
苦笑して首を振る律に、何か言わなくちゃと思うのに声にならない。
「まずは、完全に一緒に暮らす……はダメかな。やっぱり、部屋は残しとかないと不安? もちろん、それでもいいよ。一旦、ここを家だと思う……は、どう? 怖い……? 」
ブーケ、可愛い。
指輪だって、今のも三年前のも素敵でドキドキした。
「私、いろいろ雑だよ」
「知ってる」
「本当は全然しっかりしてないし、すぐ怒るし泣くし、拗ねるよ」
「まさかそれ、まだバレてないって思ってんの? 」
「それに……」
じゃあ、とうして好きに――……。
「そんなの、どうだっていいくらい……寧ろ、それも可愛いとか思えるくらい好きだから、一緒にいたいんだろ」
好きに、なってくれたの。
「変なの」
きっと、選び放題だ。
なのに、可愛い花束も指輪も、精一杯寄り添ってくれてるプロポーズも、全部。
「小鈴は男の好み語れないでしょ。お前のがよっぽど変……いや、違うんだよな」
――私のだけの為に、用意してくれたんだ。
「他の男は、まともだった……」
ものすごく重い物が、突然手から消えたみたい。
受け取っただけでそれくらい驚いた律を見ると、涙が堪えきれず落ちていった。
「そうかも。でも、そこまで深く知ることがなかっただけなのかもしれない。……好きに、ならなかったのかも」
優しくて、歪な愛し方もされなくて、好きだと思ってた。
でも、もしかしたら。
歪む理由も発生しないほど、律ほどに愛してくれた人はいなかったのかもしれない。
「……まあ、俺ほど小鈴が大事な奴はいないと思ってるけど。それが正しいかどうかは、別問題だけどな。だとしても」
言っても、どうにもならないことだ。
その人は何も悪くないし、間違った愛情表現だったわけでもない。
私だってその時は幸せだと思ってたし、事実、幸せにしてくれてたと思う。
「今度は今のお前のまま、絶対幸せにする……」
――私も、律ほど愛せる人がいないの。
指先は震えるのに、花束を潰しそうなくらいぎゅっと抱いてしまう。
ねえ、どうしたら、この花を枯らさずにいられるのかな。
永遠にこのままの姿で咲き続ける方が不自然で恐ろしいのに、ついそう願ってた。