再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
「……うち、物置きと化してたから、よかった」
「だと思った。最近、呼ばれなかったもん。手伝うよ」
しょうもないけど事実のことを言って律の手を引っ張ると、笑いながらブーケを取り上げられた。
「しばらく置いといても大丈夫だろ。……それより、教えて」
少し、律の甘すぎる台詞を真似したくなる。
可愛いくて、愛しくて、離したくない。
そう、思わず追いかけようとした手を、律はそっと包んで口づけた。
「俺がしてあげられてないことで、他の男にされて嬉しかったことってある……?」
「……………え!? 」
そんなこと聞いてどうするんだろうと悩むのも束の間、本当に今律が言ったのかなって状況把握する方に思考能力を持っていかれてしまう。
「……プロポーズ直後の彼氏目の前にして、幽霊見たような顔すんなよ。ちゃんと中身俺だから」
「……い、いや。別に、別人が乗り移ったとか思ってないよ」
「それ、思ってるってことだろ」
しまった。具体的に答えすぎた。
律はやれやれと首を振って、「あー、はいはい。ムード戻しますよ」と軽く文句を言いつつ、ソファへ私を誘うとそっと抱き寄せた。
「ま、分かるけど。……でも、今なら聞けるかなって思った。嫌だけど、想像するだけで気が狂いそうなのに変わりはないけど……聞いておきたい気持ちが勝った」
「ど、どうして……。律以外と比べて、その、よかったなんてことないのに」
律の言葉とは思えないのもあるけど、普通に考えてそんなの聞いたって不愉快なだけのはず。
「ありがと。……ん……絶対、俺が一番大事にできる自信はあるけど、そうじゃなくて。他の奴がしたことで、ひとつでも嬉しかったことがあるなら、俺もしてあげたい。それも、もっっっとよくしてあげたいの」
「……や、だから、いろいろ十分過剰だよ……? 」
律に足りないことなんてない。
寧ろ、甘さも優しさも過剰摂取で、既に感覚が麻痺していそう。
「本当は、他にされて嫌だったことも、知りたいけど……」
そこで意味深に止まるから、慌てて首を振りそうになったけど、それが正解かも分からず固まってしまった。
「ね。だから、教えて。じゃないと、探さないといけなくなるから……」
「……あ……」
教えられることが、本当にたったひとつでもあるのかな。
律に話しかけられるたびに、触れられるたびに、自分の身体のことすら「ああ、そうだった」と思い出すのに。
ゆったりとしたソファも、腰掛ける以上のことをすれば狭くなって。
無造作に置かれてたブーケが床に転がって抗議したけど、律はもう興味を失くしたみたいに笑った。
「また、いつでもあげる。……こっち向いて……」
(可愛い花)
心のなかで呟いたのは、貰った時と今とで印象が変わったからだ。
特に、落とした拍子に散った花弁は、どうしてあんなにも毒々しく見えるんだろう。
――そしてそれは、とてつもなく美しかった。