再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~



「泣きそ。いつもそうだったよな。しっかり噛みついてくるくせに、そうやってすぐ泣きそうになる。聞いたことなかったけど、なんで? 俺、そんな怖いことしないのに」


今まで聞いたことなかったなら、どうして今更聞くの。


「俺、小鈴が好きなことしかしなかったじゃない。今も同じ。変わんないよ」


(……変わっててよ)


部屋も、好みも、何もかも。
変わってくれてたらよかった。


「……すきなこと……」

「そう、小鈴の好きなコト。そりゃね。言ったとおり、急に小鈴がいなくなってから、もし再会したら閉じ込めようかな、とか。閉じ込めなくても済むように、立てなくなるようにしちゃおうかなとか……今、一緒に誰かいるなら、目の前で奪い返してやりたいとかね。考えるだけは考えた」


どうしてしないの。
律は普通じゃない。
優しい人じゃない。
狂ってるくらい、最低――なのに、自惚れなんて言えなくなるくらい、私には甘い。


「しなかったの、なんで? ……好きだから、好かれたままでいたいから以外にないじゃん」


嫌いって言ったら、そうされてしまうんだろうか。
言ってしまおうとどんなに思っても声にもならなくて、瞼は熱いのに背筋は冷たい。


「あ、泣いちゃった。可愛いな、もう……」


何の涙だか分からないものを、律の指先が拭う。
ううん、いくら拒否しても、もう既に悟ってるからだ。


「……っ、り、つ……」

「俺、いろいろ誤解させたかも。それで、怖かったのかな。泣かせるのが趣味なわけじゃないよ。……涙、止めてあげる」


泣かせるの、好きじゃないの。
絶対、そうだと思ってた。
それなら、もうこんなことやめてくれたらいいのに。

――普通でいてくれたら。


「力抜けちゃった? ほっぺにキスしただけでカクンとされたら、ちょっと……かなりやばい……」


そう言いながら、腰砕けるのが分かってたみたいな律の腕に支えられて。

触れたのは唇だけじゃない。
それをほっぺにキスなんて言うなら、三年後の今、耐性のなくなった私は一体どうなってしまうんだろう。


「大丈夫。強引にもってったりしないから。だから、もっとこっちおいで」


耐性はなくなっても、記憶はある。
無意識にできた隙間を埋めるように、抱き寄せられた。


「ねえ。その男のこと、今でも思い出したりする? そいつでも、あんなキスだけでこんなになっちゃったりするの」


そう言われて、初めて思い出して――比べてしまった。


「……しない……」


(……最低だ)


律だけじゃなく、私も。

あの時は、あれで幸せだと思ってた。
別れてはしまったけど、一緒にいる時間は楽しくて、やっぱりこういうのを幸せだと思うんだろうと。


「ありがと。嬉しい……」


それは、正しい。

律がいくら優しく髪を撫でてくれたって、もう一度唇を重ねて、順を追うようにキスを深めたって。

世間一般の感覚も、モラルも、他のどんな面から比べたってそう。


「ね、大丈夫でしょ。腰、引かないで。もっと、ぺたってくっついて」


――でも、抗えないのは、いつだって悪いことの方だ。






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