再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
(バレる……)
そう思ってしまって後悔した。
別にまずいことなんてないのに、そう思ってしまったことの方がバレてしまいそうで。
「……あ、そうだ。ちょっと待って」
抱かれていた腕をあっさりと解かれ、不安になる。
でも、律は特に怒った様子もなく、すぐに戻ってきた。
「これ、お土産だって。食べる? チョコ好きだよな」
渡されたのは、チョコがかかった苺。
おしゃれなパッケージで、すごく可愛い。
「好き……」
「よかった。小鈴の好み聞かれてさ。外したら、お前は何やってんだって怒られるとこだった。はい、あーん」
言われるまま口を開けて、大ぶりな苺を頬張ろうとすると、律の指まで口内に触れた。
「……ん」
飲み込むのを待っているかのように、唇や喉に視線が注がれてる気がしてそっぽを向くと、やや荒く阻まれて、一瞬でキスを奪われる。
「ごめん。痛かった……? ……でも、今のエロ可愛いくて無理だった」
「い、苺食べただけ! 」
エロいのは、律の指の方だ。
果肉が喉に引っ掛かって、ゴホゴホと咳き込んでしまう。
「チョコ、唇についてるしな」
「へ、変な食べ方させるから……」
ベッドから下りて、顔を拭こうとしたのも簡単に止められて、そのまま抱きしめられた。
「だーめ。……取ってあげるから、こっち来て」
子どもじゃないのに恥ずかしい。
何となくそう言い出せなくて、寄せられるまま側に戻る。
唇を数往復した後、頬や耳朶、顎まで。
そのどれも、拭っているとは思えない触れ方で。
「……や……」
コクンと鳴ったのは、私の喉だった。
苺なんて、もうとっくに口の中からなくなってるのに。
まるで、今飲み込んだみたいな恥ずかしい音が――……。
「……ほんと、ごめん。……もう無理……」
恥ずかしいと感じるのは、欲したのが可愛い苺じゃないからだ。
触れられて、撫でられて、期待してるのがバレたから。
「わ……っ」
キュッと律の胸に顔が押し潰されたと思うと、律の背中がボスッとベッドにダイブする。
「おいで」
上から律を見下ろす体勢でいるのは、チョコを取ってもらう為だ。
そんなめちゃくちゃな言い訳を思いつく時点で、嘘が確定してる。
何度も重なっては離れて、また重なるまでに間が空いたのが寂しくて。
「……本当についてた? 」
無意味な、でもその分答えやすい質問に、律はなぜか笑うだけで教えてくれない。
「そんな、がっつくくらい好きなの。うーそ。嘘だって。……でも、チョコな。そんなので少しでも元気出るなら、今度は俺が買ってくるから」
耳を摘んでみると、そうやって冗談ぽくしてくれたけど。
(……チョコ……)
どっちかというと、これは苺だと思う。
イチゴ味のチョコじゃなくて、チョコでコーティングされた苺。
(馬鹿……どっちでもいいじゃない。ただの言い方の違い)
でも、何だか妙に引っ掛かって、手を離して律の胸に頬を寄せた。
「ごめん。がっついてんの俺な。……ん、あーん」
気になったのはそこじゃなかったから、無意識に言われたとおり口が開いた。
チョコという単語に拘って、繰り返し言われた気がして。
そして、そう思ってしまったことが、ものすごく悪いことのように感じてしまう。
口内に侵入したのがチョコでも苺でもないことが、意味不明なくらい律は知っていると確信させる。
(……ぐう、ぜん……)
偶然だ。
そんなことを今してるんだから、別に違和感なんてない。
やがてもう一度首筋に口づけられ、今度は優しく鬱血したとしても。