再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
律のいない時――とろんとも、ドキドキともしてない時に考えれば、公園での出来事を律が知っているはずはない。
バレるも何も、キスマークどころか今度は唇すら触れていないというのに。
もし、私の様子がおかしすきて、あり得ないけど何か勘繰られたとして。
それでも、律はカマをかけたりしないし、もちろん怒ったりもしてない。
ただ、ひとつだけ――貰ったまま食べずにいたチョコレートがどこにも見当たらないことを除いては、それを決定づけるものは何もなかった。
『何もされてないならいい。されてても、お前のせいじゃない。でも、心配だから、何かあったらすぐ教えて。……もう二度と、あんなことしないって約束するから』
吉井くんの名前が出てくることはなかったけど、律は仕事の話になるといつも以上に優しくなる。
私を怖がらせないように気を遣ってくれてるんだと思うけど、寧ろ私に前科がありすぎて申し訳なかった。
(……そうだよ。チョコなんて……)
どうせ、食べることはできなかったんだ。
第一、私が失くしただけかもしれない。
律が間違って捨てちゃったんだとしても、そこに何の意味もない。
それよりも、律がいつもしてくれることを考えていたい。
その方が絶対にいいし、律が優しいのは事実で、お返しになることを想像した方が私だって楽しいから。
――でも。
『その……いろいろしてくれてありがと。り、律は……何か、私にしてほしいこととかある? 』
『え……』
思いつかないからと、直球に尋ねたのがいけなかったのか。
『……ある。めっちゃあるけど……え、どれが一番ハードル低い? 』
『し、知らないよ! 言われてみないと……って、どれもハードル高そうなの……』
(……一体、何の話……)
混乱しながらも、あれこれ妄想してると、律の吹き出した音で我に返った。
『も……もう! 私は本気で……』
『分かってる。……そう言ってくれるの、すごく嬉しい。たぶん、俺に直接聞くまで、自分でめちゃくちゃ考えてくれたんだろうなってことも。ありがとな。……嘘みたいかもしれないけど』
――小鈴が、俺を好きでいてくれるだけで嬉しい。
『いてくれるだけで……って言いたいけど。それだと、ちょっと嘘になるかもしれない。……俺を好きでいて。その為にできることは惜しまないから』
・・・
(……そう言われちゃったら、それ以上聞けない)
律のことは好き。大好き。
何度だって言えるし変わらないけど、つまり、もっと伝えていけばいいのかな。
恥ずかしがってないで、せめて二人の時はもっと分かりやすく「律といて幸せ」を伝えたら、喜んでくれるかな。
そう思って「早く会いたい」を伝えてみると、間が悪いことに「ちょっと遅れるかも」って返ってきた。
今度は元気で、ただ早く終わったから待ちきれないだけっていうのをメッセージに追加して。
「この前のカフェでのんびりしたいから、絶対に急がないで」も付け加えた。
でも、それも本当。
そういえば、この前はコーヒーもちゃんと飲めなかったし。今日は、のんびり律を待てる。
次のデートこそは、律が楽しめることにするとか。
はぐらかされちゃったけど、何か喜んでくれることを考えるとか――……。
「あー、それにしてもショック。古藤さん、本当に彼女いたんだ」
「まだ言ってる。やめといた方がいいって、あんなに言ったのに」
仕事終わりか、近くの女の子が数人が騒いでる。
(……律の同僚……)
慌てて隠れ場所を探したけど、そんなところあるわけない。
そもそも隠れる必要もなければ、私の顔を彼女たちが知ってるはずもなかったと、ほっと息を吐く。
「だってー、格好いいんだもん。彼女いるって、断り文句だと思ったんだけどな」
そんな話になると、ますます顔バレしたくない。
今後は、このカフェ使うのやめよう――……。
「私は逆に、婚約までする彼女がいたことにびっくりしたよ。だって……ねぇ、彼女、知ってるのかな。古藤さんのあの噂」
「噂っていうか、ほぼ事実確定でしょ。あまりに酷すぎて、その子が振られた腹いせに噂撒いてるとも思えないよ」
――女に最低なクズだ、なんて。