再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
その後すぐ、ジムは退会した。
気まずかったのもあるし、何度か声を掛けようとしてくれた律を見る、他の女性の目が気になったのもある。
それが、それからしばらくして、ばったり付近のコンビニで再会するなんて思ってもなかった。
『……っ、待って』
しかも、店内に入ろうとした彼に、出ようとした私は正面から出くわした。
思わず、くるっと店内に戻ろうとしたのを呼び止められる。
『ジム辞めた? のって、俺のせい……だよな。ごめん』
『……いえ……』
本当を言うと、そうじゃなかった。
あれ以前は、確かにイライラしてたし、それが原因で辞めようと思ってたけど。
でも、あの日帰ってから、自己嫌悪してばかりだった。
女の子が群がってて騒がしかったのは、彼のせいじゃないのにって。
後から思えば、彼は一言も発してなかった気がする。
迷惑ではあるけど、彼が悪いんじゃなかったのに。
『もしかして、何か嫌なことされたりした? ……あれから、ずっと気になってた』
『あ、そういうわけじゃ……』
怖かったけど、嫌がらせされたわけじゃない。
それにそれこそ、彼が謝ることなんてない。
『……私こそ、ごめんなさい。確かに迷惑ではあったけど、あなたのせいじゃないのに』
『…………あ、迷惑ではあったんだ。やっぱ、ごめん』
しまった。つい。
『あ、いや、だから……そうだけど、その』
慌てて弁明しようとしたのを、彼は笑って止めた。
『いいんだって。本当のことだし。でも、それなら辞めたのは……単に、俺に会いたくなかったから? 』
『……通いにくくなっただけ』
気が散ってトレーニングどころじゃないのはあるけど、別に彼個人に好きも嫌いも、会いたいも会いたくないもない――……。
『俺は、会いたかったよ。……名前、聞いとけばよかったって後悔した。まぁ、教えてくれなかったとは思うけど』
ああ、やっぱりそうだったんだ。
悪い人ではないと思うけど、もしかしたら何の悪気も他意もないのかもしれないけど。
自覚の有無に関わらず、その容姿でそういうこと言うとどうかるかは考えてから発言した方がいい。
『あんな知り合い方でこんなこと言ったら、余計印象悪くなるよな。でも、これを逃したら、もう会えないかもしれないから』
そりゃそうだ。
こんなコンビニで再会するなんて、ものすごい偶然。
あり得なくはないけど、そうそう起こりようがないこと。
だって、彼と私じゃ、どう考えても世界が違う。
『俺のこと、最低な奴だって思ってるのも分かる。でも、ちょっとだけ……チャンスくれない? 』
最低な奴……ではないかもしれない。
ただ、あれが彼にとっては日常だってことなんだろう。
でも、チャンスなんて与えちゃいけない気がしてた。
『……な、なんで……。からかうから、別の人にしてください。その方が……』
そんな申し出に、可愛く反応できる誰か。
そんなのたくさんいるだろうし、彼にとってもいいはず。
『からかうなら、こんなとこ選んでない。こんなに焦って引き留めたりしない。……格好悪くて、今すごい自分に引いてる。……でも、これきりにしたくなくて』
――お願いだから、俺に口説くチャンスを頂戴。