再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~





・・・




部屋に入れたのは、返事をする為じゃない。


『大丈夫? 』


そんなの、道端でだってできた。
考えるふりがしたいなら、「またね」でよかった。
固まって一言も言えない私に律は頭をポンポンして、「今すぐじゃなくていい。……でも、まだ振らないで」とすら、言ってくれたんだから。


『何も聞けてない状態で、襲ったりしないから。小鈴はそんな子じゃないし、これ以上、真剣なの疑われるようなことは……』


引き留めたのは、私だ。
私は違う、他の子みたいに可愛くも弱くもない。
一緒にしないでなんて啖呵を切ったくせに、狡く、弱々しく律の背中を引き戻した。

了承したんじゃない。
私の希望で、律は今私の部屋にいる。


『……そんな子だよ。もっとひどいかも』


真っ赤になって、勝手に呼吸困難になりそうな私に笑って、「そんなつもりないの、分かってる」って律は言ってくれるのに。


『小鈴……』


みっともなくて、恥ずかしくて、私こそ嫌われてしまうかもしれない。
そう思うと、噛みつくどころか俯いてしまう時点で、もう答えは出てる。


『俺のこと、少しは好き……? 』


両頬を包まれて、反射的に目を瞑ったのは。


『じゃなきゃ、抱けない。俺が身体だけにできないし、お前に“やっぱり、そうだったんだ”って思われたくない。……だから、教えて。あれから、ほんの少しでも俺のこと好きになってくれた? ……信用してくれた、かな』


怖いのは律じゃない。
自分の声で言葉にして、聞こえてくるのが怖かったからだ。


『……好き……』


私が、好きなんだ。
どうなってもいいんじゃない。
何があっても、後悔しないなんて嘘だ。


『本当に……とか、好かれたくていい人ぶってるな。……違う。お前にそう言われたら、もう確認したくない……。気の迷いでも、本当はちょっと好きかも、くらいだったとしても』


額に口づけられて、ほろりと涙が落ちていく。

律のことを信じたい。
本気で好きになってくれたと思いたい。
――ずっと、好きでいてほしくて。


『望みがあるなら、逃したくない……』


耳と顎を支えた指先が、少し震えた。
律は自嘲気味に笑ったけど、まるでそれが嘘じゃないって証明みたいで胸が鳴った。

自分勝手な判断。
でも、嬉しかった。
初めてのキスに、律も緊張してくれてると思えて。


『……めちゃくちゃ格好悪いけど、やっぱこれだけは確認させて。終わってから、軽蔑してもう会わないとか言わない……? 』


何度か繰り返した後、甘えるように言われて笑ってしまう。


『あ、ひどい。俺は本気で、お前に嫌われないか心配してんのに……』


おかしかったんじゃない。
嬉しいんだよ。


『遊びじゃないなら、言わないよ』


律を好きでいてもいいと思える要素が、見えてきたことが。


『俺が、遊びにしないでって懇願してる。……絶対、しないよ。小鈴の方がそう言ってくれるってことは、俺も言っていいよな』


――俺と、付き合って。


おかげで、それを信じようって自分に許せたことが。


『……うん……』


嬉しいの。
だって、好きになってしまったから。


『お前の思ってるとおり、俺、最低だから。お前には絶対しないけど、何かあったらすぐ言って。言えなかったら、殴ってもいいから』

『分かった。その時は、力いっぱい殴るね』

『……いや。そんな力込めなくても、その前に気づくから』


冗談に乗ってくれて、ほっとした。
上手く笑えた自信はないし、その証拠に律の笑顔も優しすぎる。


『……暴走してたら言って。……好きすぎて、上手くできる気がしない……』


「ほんと、ダサすぎて恥ずかしいわ」
言葉どおり、恥ずかしそうに律は笑ったけど。
キスが再開して、ひとつひとつ意思を確認するように脱がされ、触れられると。


『……律、すき……』

『……っ、それだめ。今、可愛いしかなくなったら、まじどうにかなる……』


私も止まれなかった。
どうなってもいいとは思えなくなってしまったのに、一度好きだと認めるとどうしようもない。
「煽らないで」と塞ぐ唇が優しすぎて、何度も繰り返してしまうほど。

――私、律といたい。






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