再会彼氏〜元カレは自分を今カレのままだと誤認しているようです~
再会彼氏
一緒にいたら、ダメになる。
別れた理由、それだけ。
だから、分かってたでしょ?
つまり私は、無理やり離れないと自分の中から律を消すことができなかった。
他の誰かをまともに愛することができなかったのは、寧ろ私の方だったのかもしれない。
「……律、もう……」
「……っ、小鈴」
夜、律の――二人の部屋。
無理だとすら言えなくて先が掠れたのを見て、律は慌てて身体を引いた。
「ごめん……。夢中になりすぎてたかも……本当、ごめんな。大丈夫か……? 」
気持ちとは関係なく流れた涙を拭いて、張り付いた髪を整えてくれる。
何度も「ごめん」を繰り返す律の目は、ちっとも濁ってなんかいなかった。
「小鈴? ……っ、ちょっと待って……」
軽く頬をタップされても無反応なことに、相当焦ったんだろう。
艶に塗れた瞳が正気に戻って、上から完全に離れそうになる。
「……や……」
もう無理だって抗議したくせに、律の首に腕が伸びた。
(……ああ、そっか)
私が今自覚したことを、きっと律も気づいたんだよね。
「ん? や、なの。……まったく。せっかく理性戻るとこだったのに……お前は、たった一文字でそれ全部壊してっちゃうね」
――今濁ってるのは、私の目の方だって。
「それ、怖いからじゃない……? もう二度と、あんなことしないって言ったろ。あの時は、お前が俺を欲しがってくれる理由が恐怖からでもいいって……お前がいてくれるなら、何だっていいって思おうとしてた。でも、愛されたいって……愛されるようにすればよかったって、何度も思った」
正気に戻すようなキスも、瞼から唇に移ればそんなの忘れたみたいに、より深みへと嵌ってく。
頭を撫でられて安心したとたん、首筋へ下りていくだけでゾクリとしたスリルを味わいたがる。
怖くなんてないって、私の意思だって首を振っても進んでくれずに焦れてしまう。
(律、律、律……)
夢中になるのは私だって知ってた。
だからこそ、遠ざかろうとした。
初めて会った時も、三年前も。
私、都合のいいことばかり忘れてた。
あの時私の精神を壊したのは律だけど、壊されてもいいって、顛末を想像したうえで侵入を許したのは私だったから。
「大丈夫かなー。付き合ったばっかりの頃の感じ、思い出すな。本気で好きな子に悪いことするって、こんな感じなのかなって。あの時も、そうやってくっついてきて……」
――必死に堪えてる俺を、突き落とした。
律に正常の範囲内で愛してほしいと思ったのは、自分が異常なくらい律のことが好きだからだ。
それが難しいと悟ったって、強制的に距離を置くことしかできなかった。
「あれで、引き金引かれたよな。後はもう、可愛いくて可愛いくて……これが“愛してる”だって、自分の中でこれ以上ないくらいしっくりきて。愛してると可愛いしか考えられなくて、どうやったら小鈴がずっとここにいてくれるかしか頭になくて。……ちょっと違うか」
――狂った頭じゃ、それしか考えられなかった。
「……好き、だよ」
「知ってる。再会してすぐは不安だったし、お前も迷ってたと思う。いいんだって。当然だから。でも、今は……少しは伝えられたかな。小鈴が、自分の意思でこんなに求めてくれるなら。そう思ってていい……? 」
そう。私が好きなの。
律じゃないと、ダメだったの。
「もう、別れるなんて……」
二度と言わないって、コクコク頷くと。
「ん……」
「……俺たち、別れたことなんてないでしょ。遠距離の期間にお互いいろいろあって、再会しただけ」
やっとやっと、再びこっちに傾いた律にくっつけて嬉しくて、やっぱり頷くしかできない。
(……再会……)
そう、お互い好きすぎてすれ違っただけ。
――律が言うみたいに、彼氏に再会しただけだ。