カフェとライター
そして、密着初日。
編集長や周りのこの企画に勢力を注いでいるスタッフの方々からの圧を全力で感じながらほとんど資料室に缶詰になり。
この日が遠いように感じていたけれど意外にあっという間に来てしまった。
1ヶ月間、一般人からすれば尋常ではないくらい忙しいとのことで、その前2日は準備をしながら、たっぷり寝させてもらった。
できるだけハードスケジュールの彼の邪魔をしないようにしながら、
進めていくことがこれから1ヶ月間私の1番のお仕事となる。
いよいよ。今日から、始まる。
「おはようございます、今日から密着させて頂きます、brightの水野憂です。よろしくお願いします」
初日はMVの撮影。スタッフさんに通されたメンバーたちのメイクルーム。個人撮影の間の待ちで、準備中の工藤戒李に声をかける。
会うのは、あのパーティーの日以来だ。
あの時は再会の衝撃で正直言われた言葉と雰囲気しか覚えてない。
どんな顔で会えば良いのかかなり緊張したけれど、
仕事だと自然に思えているのか、普通に声をかけることができた。
ちらり、鏡越しに私を視界に入れた工藤戒李は笑顔だった。
「おはよ、1ヶ月よろしくね、水野さん」
芸能人、の彼に頭を下げる。
「事前の打ち合わせの内容はマネージャーたちから聞いた。打ち合わせ通り、好きなようにしてもらっていいから。写真も俺は自由に撮ってもらって構わないけど、チェックは入るみたい。多分、言われるのは周りの写り込みとかだろうからそこだけ気を付けながら撮ってもらえたら大丈夫かと」
そういう戒李くんに頷く。
「文章は水野さんの言葉で綴ってくれたら。完全にお任せする。…質問とかインタビューもあるんだっけ?」
「あーっと、質問事項は企画で…今ファンの方にSNSで質問を募集しているみたいです。纏まれば質問させてもらおうかと…」
でも、スケジュールを見る限りそんな時間取れそうになさそう。
最悪文章化して後日解答して貰った方が負担は少ないかな…。
戒李くんと会話をしながら頭の中で計算する。
できるだけ効率よく進めて行った方が負担が少なくて良さそう。私の言葉を聞きながら、うんうん、と軽く頷く戒李くん。
「了解。じゃ、撮影開始までまだ時間があるからのんびりしてて」
そう言って彼はヘアメイクをされながらタブレットで自分のダンスの練習動画を繰り返し見ている。
・・・スムーズな仕事のやり取り。こんな風に仕事の話をするとは思ってなかったなぁ・・・。
「お、今日からだっけ、密着」
のんびりしてて、そう言われても。
慣れない場所に少しどうしていいのわからず。
邪魔にならないように部屋の中準備されているメイク道具などを眺めていると。
ざわざわと賑やかになったと思ったら、
メイク室に入ってきた他のメンバーの方々。
一番最初に入ってきた人が私を見て、それから戒李くんへと視線を流す。