カフェとライター



動画を見ていた戒李くんの視線が、

鏡越しに今来たメンバーへと向けられる。

「うん。新星社の、brightのライターさん。」

紹介されて、すぐさま向き直って頭を下げる。

「初めまして、密着させて頂きます。水野 憂です」


「水野さん」


「LOOPのメンバーの、新(あらた)と来(らい)と光(ひかる)。禅(ぜん)で全員なんだけど、禅は生放送の仕事終わらせてくるからまた後で紹介する」

「よろしくお願いしまーす」

元気よく頭を下げられもう一度頭を下げた。人気グループのメンバーが至近距離でわざわざご挨拶。ファンならたまらないんだろうな、と思う。


「いくつ?」

ふとメンバーの1人に聞かれる。黒髪マッシュっぽいサラサラヘアのこの方は新さんだ。えっと、と口を開く前に飛んでくる返答。



「俺と同い年」

答える前に横から戒李くんが答えてくれた。

視線はもうすでにこちらにはなく動画を見ている。


けれど、こちらの様子はちゃんと把握してくれているみたいだ。


「へーー!!」

27かぁ、とニコニコしながら言われてできるだけ微笑みを返す。



その表情の裏で、事前の資料で頭に叩き込んだ情報をしっかりと思い返す。

えっと、確か。

このグループは戒李くんの他に同い年の人がもう1人と、

2つ上が2人と、下の子が1人いたな…。


新さん、禅さん、戒李くん来さん光さん…何度も覚えるために年齢順に叩き込んだ順番を思い出す。


てことは。来さんと私は同い年ってことかぁ。深めのブラウンのゆるふわパーマの彼を見るとちょうど目があった。




好奇心旺盛。


そんな言葉がぴったり合いそうな顔の口が開く。


「初めての密着企画が同い年のライターさんかー。やりやすそうでよかったじゃん」



うんうん、と周りのメンバーが頷く中で。






「まぁね。……因みに高校の同級生」



「え、」
「えーーー!まじか!!」




あ。言った。






リアクションする他のメンバーと同じように、自分もまさか言われるとは思ってなくて驚き目を見張ってしまった。



黙っておく予定だったのに。

さらっと言われた。そんな繋がりがあること言っちゃったら、そりゃ、放っておくはずがない。

「え、同じクラス?」


「いや、一緒になったことない」

「あ、じゃあ知らなかった感じ?」

「いや、喋ったりはしてたから顔見知りではあった」

「へーー久々の再会って、やつ?」


ニヤリ、3人とも同じ顔。面白い物を見つけたかのように口角を上げながら聞かれる。戒李くんの返事はない。



返事のない戒李くんの方に向いてた視線がこちらへ向くので仕方なく。

…仕方なく。はい、と私が代わりに頷く。

「え、ちょっと何。それめっちゃ萌えるんだけど」

「憂ちゃん詳しく聞かせて」
「戒李の高校生活聞きたすぎる」
「やめろ」

前のめりになり気になり出した彼らに一言。戒李くんの静止する声で若干距離を離される。



タイミングよくスタッフさんに各々名前を呼ばれ、

動き出す中で、気怠げに伸びをした新さんに、さらっと耳打ちされた。







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