カフェとライター
「グループの仕事の時は一緒だから、その時いろいろ聞かせてね」
ニコッと笑った笑顔に、うわ、アイドルってすごい…と思ってしまった。とても気さくだ。
男の人でもこんなに薄く見えるけどしっかりメイクを施してるんだ、
と勉強になったメイク時間。忙しい日の私の数十倍手が込んでいた。それはそうか、沢山の人に見られるんだもんなぁ…。
あれだけ何度も塗られていたのに
まるで塗っていないような肌に、技術の凄さに感心する。
技を教えてもらいたい…。
メイクが終われば、着替え、カチッとしたスーツ姿から撮影は始まるらしい。そして、いよいよ撮影スタジオに入っていく。
リハーサルで緩めに音楽に合わせカメラの動きや自分たちの動きを何度か確認した後、
いよいよ撮影へ。
「いいねぇ工藤戒李の独占」
私の横で戒李くんにカメラを向けながら、嬉しそうにカメラマンの渋谷さんが言う。
プロモーション用のカメラ以外で撮影を許されているのは…というか現場に入れてるのは私たちの会社のカメラだけ。
今撮っているこの映像も他のメディアからしたらかなりのお宝映像なんだろう。
プロモーションとして解禁されればTV曲が朝のニュースから一斉に放送をしだすのだろう。
独占、のすごさを少しずつ思い知る。実際に今見ているこの景色を世間の人にお届けするのは数ヶ月先なのだ。
カメラマンの渋谷さんはずっと密着するわけではなく、時折きては写真を撮るそうだ。
完全にずっと密着は私だけらしい。少し踊ればカットがかかり、スタッフさんか駆け寄っていく。
髪型を直して、衣装を整えて、
セットを整えて、撮れた映像を確認する。
メンバー間で話をしながら、少しずつ撮影が進んでいくのを横目に質問される。
今日一日でこの新曲を口ずさめるまでになりそうだ。
「どう?工藤戒李」
ニコニコと楽しそうに唇を弧の字にしながら私に尋ねる。
用意された世界観の中で、動くカメラ。
カメラ目線で、と思えば
遠くを見つめて、表情を作って、見たことのない世界で。
「まだ初日なので何とも…ですけど、すごいです…」
…なんと、
言語化すれば
これが伝わるのか。
「はは、あんだけいい記事かくのに感想ありきたり」
ぽそり、
答えた私に笑う渋谷さん。
何度も何度も、同じシーンを角度を変えて、同じ角度でを繰り返す。
真剣にモニターを確認して、そして次のシーンへ変わる。
もう、数え切れないくらい踊っているのに、表情は始まった時から変わらない。疲れているだろうに疲れてないかのように見えてしまう。
見てるこっちが疲れてきそうになるのに。
プロ、すごい。
1日で撮り終わるとは知らなかった。
朝早くから何時間も撮影して、終わったのは日付が変わる少し前。予定表…スマホの中に入れているスケジュールを確認する。
明日は昼前にスタジオ入りして昼から今放送されている医療ドラマものの撮影が夜まで。