カフェとライター
とん、と車から軽やかに降りていく。
「じゃ、また明日」
少しだけ振り返った彼の瞳と目が合う。
「はい、お疲れ様でした」
できるだけにこやかに。作ってみせた笑顔。
軽く頷かれて、バン、といってドアが閉まる。
スモークガラスをじっと見つめると、
背を向けてマンションに入っていく戒李くん。
何階建てだ…?
車の中からでは
高すぎて最上階が見えない。家賃…いくらくらいなんだろう。
今は、こんな立派なマンションに住めるほどの…
同級生だったらはずなのに。わかっていた、知ってはいたけれど。
立場の違いを思い知る。
あの頃との違いにふいにどうしようもなく苦しくなった。
これから、こうして差を、住んでる世界の違いも思い知るんだろうな。
本当だったら、会うはずもこうして喋ることもままならない存在なんだ。
「明日の迎えは、逆に1番になりますがそれでもいいなら迎えに行きますよ」
戒李くんの事務所はとてもいい事務所だ。
運転手さんと2人きりになった帰り道、明日のスケジュールについてお話をしながら、運転手さんは戒李くんが移動中は台本をあまり読まない、基本家で覚えてくる。だからきっと今から明日の分も覚えるのだろうと教えてくれた。
この時間から、暗記…、、、
帰って少しだけ今日のことをまとめて寝ようとしていた私は聞いただけで目が回りそうだった。