カフェとライター




そんなこと言えるような空気ではないからだ。

そう言われたら私はこれ以上この話題をやめて大人しく空気になり時間が来るのを待つしかない。


忍成さんが来てくれたら、

一応ラウンジか何か他で待てる場所はないか、本当に密着といえど同じ楽屋にいていいものなのか聞こう。


早く来て・・心の中で今どこにいるのかわからない忍成さんが早く来てくれることを願う。



「あ、そーだ」

「ん?」

ポスっと、

上着を近くに投げおいた戒李くんは、私の方へとそのまま近づく。その姿を見ながら、ん?と首をかしげれば。



「連絡手段。ないと色々不便だから。登録」

目の前に突き出されたスマホ。その画面にQRコードを出され、きょとんと見上げる。戒李くんの顔と、QRコードをもう一往復した所で、私は状況を理解して携帯を取り出す。


登録画面を開いて、カメラへ。


すぐに読み取れた戒李くんのアカウント。

「なんでもいいから送って」



そう言われて、

そのまま開かれたトーク画面に

くまが頭を下げたよろしくお願いしますスタンプを貼り付ける。

画面から顔を上げると、同じように画面を見つめている顔。そこから顔を上げたと思うと、そのまま何も言わず少し離れたソファーに戒李くんは沈んだ。

台本を片手に、集中に入った戒李くんを見て、もう一度自分の携帯画面を見つめる。


これは…、ファンが喉から手が出るほど欲しいものなんじゃないだろうか。


スマホ、無くしたら海に沈められるんじゃなかろうか。

この密着を始めた時に思ったけれど、

絶対に流出させられない。

機密事項を手に入れ過ぎてる…。

スマホがもう、今までで1番価値ある物、というか。

お財布よりも今は大事なものに見えてくる。
そんなことを思いながら、画面に指を滑らせる。


本名、で登録してるんだ。

工藤戒李と表示された名前。

アイコンは・・


LOOPのジャケ写?事前の資料で目を通した。見覚えがある。これはデビューした時の写真だ。少し眺めて、そっと閉じた。












ドラマの撮影は医療物だ。



戒李くんは初期研修医の中の1人。

主役ではないけれど、主要メンバーの1人だ。

事前の資料でドラマも今放送されている分まで目を通した。今日撮影するのはドラマの放送している分から3話先の話らしい。

間がどうなっているのか分からないので、きっと、よくわかなんないだろうな、と思いながら予定表を見つめる。


衣装に着替えた戒李くんはスタッフさんに呼ばれ、スタジオに入る前の控える前室へ動く。

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