カフェとライター
しっかりと締まったブレザーの襟元を緩めようと触りながら、
私の視線に気づいたらしい戒李くんが不快そうに声を落とす。
何、と言われても。ただ、見ていただけなのだけれど。
「…似合ってるね」
「……」
27でも全然高校生に見える。さすがアイドル。褒めたのだけれど、私の声に反応はない。
…やっぱ、嫌われてるのかなー。
1週間経ったけれど、ぎこちない会話は相変わらずで。
もちろん、現場で困ったことや記事に書くにあたりわからないこと、気になった用語などを時間のあるタイミングでまとめて尋ねた際は丁寧に教えてくれる。
気にかけてくれる様子もあり、仕事をしながら気にかけてもらって申し訳ないし感謝もしているのだけれど。
なんとなく、の会話は常にこんな感じだ。
ぎこちない。
一般市民とアイドルなのでしょうがないかもしれないけれど。
少し、もう少し打ち解けて話せたらいいなーとは1週間もこの世界にお邪魔すれば多少は貪欲になるものだ。
交換したラインは、まだ一度も使っていない。毎日会うので、わざわざ連絡する用事がない。
いいことなのか悪いことなのか少し心に余裕も出てきた私は、
合間を見て、現場のセットの作り、小道具等にも興味を示せる余裕もできた。
カットがかかり、場面変えなのか、教室の机たちの配置が変わり始めたのを見て、撮影されている教室を後にする。
こうなれば、次の撮影が再開されるまでは多少時間があるのだ。
廃校を使うのかと思っていたのだけれど、普通に今も使われている私立の高校らしい。
日曜日で学校のないタイミングで借りて今日中に戒李くんに必要なシーンは撮り終わるとのこと。
撮影のため事前に生徒立ち入り禁止となっていて校内には生徒は誰もいない。
久しぶりの学校。
自分の母校にも卒業以来行っていない。
この歳になって高校にお邪魔することなんてそうそうないので、少し、探検したくなった。
現場の様子を伺って、少し離れても良さそう。
のども乾いたし、自販機に行くついでに回ってみようか。時計を確認し、20分くらいは余裕だろうと踏んで、そっと、その場を後にする。
ひんやりとした廊下に、遠くで、ボールの弾む音がする。バスケ部かな。廊下に貼られたポスターや作品を見ながら、自動販売機を探す。