カフェとライター





「え?」

「別に、いてもらって大丈夫。俺がお邪魔してるんだし」



「あ…」

「だから、どーぞ。続けて」

座ったまま、手で促される。


「……はい」

そう言ってくれるなら。

少し、気まずい空気が流れるけれど、頷いて、仕事に戻ろうと新しい本を手にとる。

重たいな、と感じる量まで腕に抱えて机まで運び、置いていると。


「…俺のこと知ってんの」

ぽそっと。

静かな室内で届いた彼の声。

聞こえて、彼の方を見ると、工藤くんは動かず、変わらずじいっと私を見ていて。

さっきより、少し起きたみたい。



その顔を見て、さすが、芸能人。綺麗だな、と思った。見惚れそうになるのを抑えて、また、笑顔を作る。






「知ってますよ。工藤戒李くん。有名ですもん」



知らないはずがない。

なんで、芸能人がこの高校にいるのかが不思議なくらいだ。


「知らない人、いるんですか?」



「さぁ。いるんじゃない」

わずかに首を工藤くんは首を振り自虐的に笑う。

「少なくとも、私のクラスの子はみんな、工藤くんのこと知ってますよ」

「…それはどーも」

嬉しくなさそうな返事に、頷いて視線を逸らす。

慣れているのだろう。

教室にまで見にいく人や、教室の窓から登下校を見守るファンもいると聞いたことがある。

知名度がある、なんて当たり前なのかな、と。

少し、大変そうだな。

ぼんやり、そんなことを思っている、と。

「…俺も知ってる」

「へ?」

「…水野憂」

低めの落ち着いたトーンで聞こえてきた、自分の名前。

びっくりして顔をあげる。有名な芸能人の口から、そこら辺の一般人の私の名前が、出てくるなんて。



まさか、自分の名前が、しかもフルネームで知られているなんて思ってもなくて。


「…なんで、名前、」

びっくりした私の顔がおかしかったのか、クスッと面白そうに笑った工藤くん。


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