カフェとライター
「それこそ知らない人いんの?」
声音が楽しそうに上がる。
「いつも成績トップで表彰されてんじゃん」
なるほど。
それで、認知を。
「すごいよね」
「いや、でも、1位じゃないから…」
毎学期、テスト結果は張り出され、終業式では学年首位と文系1位と理系1位は表彰される。1位はいつも不動の理系の子だ。
私は総合で学年1位になったことはないけれど、どうにか文系で1位はキープできていて。
それで表彰されていた。
わざわざ全校生徒の前で、賞状を渡されて、恥ずかしいだけで全然嬉しくはないけれど。
それで、工藤くんに知られていたとは思わなかった。
「ここで勉強してんの?」
もう寝る気はないのか。ソファーに座ったまま、工藤くんは私との会話を続けてくれる。
「あ、はい。学習室は人が多くて苦手で」
みんな自由に勉強したいから学習室へ行くけれど、私は逆に無音が好きだから。
人気がない方が嬉しい。
「ごめ、場所奪って」
「あ…!いや、大丈夫です。私だけの場所じゃないし、ここ、静かで落ち着いて仮眠もしやすいだろうし、いつでも、どうぞ…」
自分と同じく誰かの落ち着く場所であってくれることはなんとなく嬉しい。
そういうと、ゆっくりと彼の口がきれいに弧を描き。
「ありがと」
微笑むような笑顔に、この空気に、こうしてファンが増えていくのだろうな、と思った。ーーーーこれが、工藤戒李との最初だ。
たまたまここを見つけて寝てたところで、他の生徒(私)に見つかってしまったし、もう来ないだろうと思っていたのだけれど。
予想に反して工藤戒李はこの場所を気に入ってくれたようで。
この日を境に頻回にここに来るようになった。
最初こそは、芸能人の来訪に驚いていたのだけれど、慣れとは恐ろしいものだ。いつの間にか芸能人ということを忘れ・・
いや、忘れてはいないけれど、ふとした時に冷静に思い出すだけで、普通の同級生になってしまっていた。
や、もともと普通に同級生なんだけれど。
最初こそ畏って時々敬語で話していたけれど、それも慣れとともに馴れ馴れしくタメ口で話すくらいまでは慣れて。
「大変じゃない?」
今日も今日とて。勉強する私と同じ空間で一眠りを終えた工藤戒李にふと、他愛もないことを聞いてみた。
「何が?」
自分の部屋かのように、マイ毛布を持ってきて置き始めた工藤戒李はソファーに横たわったままその薄手の茶色い布から鼻から上だけを出して私の方を見ている。