カフェとライター



「あ、お疲れ様です」


「どう?楽しんでる?」


今回、編集部を通して私を誘ってくださった張本人である大御所大女優松村淳子さんが、人並みをかき分けて歩み寄ってきてくれた。


その煌びやかに眩暈がする。


話しかけようとしている他の人も数多くいそうだ。声をかけようとするも、松村さんが私の方に一直線にくるものだから、チラリ、見て去っていく。

少し暗めの赤いマーメイドドレス。



胸元には銀色のレース模様があしらわれていてとてもセクシーだ。


美しく年齢を重ねている、そんな言葉がぴったりの年齢を感じさせない若々しい姿に見惚れてしまう。

「すごいですね、圧倒されてます」


「いい機会でしょう?貴方の目にはどんな風に写ってる?」

ドレスより明るい真っ赤なリップを塗った唇が弧を描き、真っ白い歯が覗く。



「…もう、なんといっていいか、御伽話の世界にいるみたいです」

ぽつり、困りながら喋った私。

「ふふふ、この様子がどんな記事になるのか楽しみにしてる」


もうすっかり、貴方の書く文章のファンよ、と背中に触れられながら言われて、ぎこちなく頭を下げる。

私の背中に触れるために動いた空気から、高級そうなとてもいい匂いがした。



こんな…しがないライターに…







ライターと言っていいのかわからない人間に、誰もが知る有名女優さんが、申し訳ない。












「書いてくれたインタビュー記事も大好評でね。現場で他の子や事務所の人にもおすすめしてるの。読んでお願いしたいって言ってた子もいたから、またお仕事が増えたらごめんなさいね」

へら、とちゃめっけたっぷりに言われて苦笑いする。









インタビューでお話しした際に、合間に私のことについて聞かれて、


答えたことを覚えたくださっていたのだろう。

私はあまり前面に、このお仕事を積極的にしていきたいと思っているわけではない、とお話ししていたのだ。

仕事を評価されるのはとても嬉しいのだけれど。



「次は連載がしたいわねー」

「おおっ!それはぜひぜひ編集長に報告させて頂きますよ!」

横にいた笹村さんがすかさず話をもっていこうとされる。

その圧に2、3歩下がり譲る。…熱い。これが一本企画化されるかどうかで変わってくる重要取引きなんだろうな…。

雰囲気を観察しつつ感心する。わたしには、別世界だ。元々、ただ、思ったことを言語化して、誰かの心に少しでも残ればいい、そんな風に思っていた。


その時言葉にした気持ちを、


共感してくださる人がいたり、元気がなければ少しでも元気になってくだされば。

少しだけ、人生が豊かになったと思ってもらえたら。

そんな気持ちだった。



カフェで働きながら、小百合さんにお客さんが楽しめるような小話を少し書いてみて、と言われて書いていた毎週のちょっとしたお話がたまたまカフェに通われていたこの雑誌の編集長の目に止まり、スカウトされ。


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