カフェとライター
忍成さんはその後しばらく戒李くんと現場の様子を眺めていて、暑い暑いと言いながら光くんの現場の方へ戻って行った。
「…今日は俺はこれで終わり」
予定していた退勤時間から3時間過ぎた頃。
お疲れ様でしたーのスタッフの声の波から戻ってきた戒李くん。
「お疲れ様でした」
途中休憩中も端で寝ていたり動作の確認をしていたり殆ど休みか何かをしていたので話しかけることもなく。
朝、始まる時に挨拶したきりの会話だ。昨日は夜中までかかって、眠たいとのことでホテルに直行で帰って行ったしなぁ。
「お腹空いてる?」
聞かれ、自分のお腹と相談する。
「あー…、少し」
「どうする?」
「え?」
「何か食べ行く?」
ちらりと携帯で時間を確認しながらさらっと。そう言った戒李くんに目を見開いてしまった。
「まだお店ギリ空いてるでしょ」
「や、その…まずくないですか」
人目、、まずいってもんじゃない。
地方ロケや移動時に一緒にいることが増え、それをファンに見られたり変に噂になってしまうことを避けるためにSNSの活用や仕事で、私が密着していることを公開しているけれど。
「別に暗いし帽子とマスクで気付かれないでしょ」
ポケットからマスクを出し指にかけてプラプラさせる。
密着して気づいたが、彼は自分の影響力を低く見ている。
身体の一部でファンは特定しちゃう時代だよ?隠したって声やら何やらですぐバレるのに。戸惑う私を見下ろし口を開く目の前の有名人。
「…観光、せっかくだからする?」
その言葉に無言で首を左右に振る。