カフェとライター
「…せっかくの機会なので、できる限りしっかり見ておきたいんです」
きっと、もうこの先、戒李くんに密着させてもらえる事なんてないだろうから。
せっかくの機会、1日も惜しみなく過ごしてたい。
できるだけ邪魔にはならないように。
「…そ」
「はい…わ、このエビ美味しいです」
口に入れたエビの美味しさに思わず戒李くんに報告すると、声を出さず笑われた。
「………飲む?」
「あ、ありがとうございます」
ご飯を食べ終えた後、私の部屋とは全然違う高さの景色。キラキラな夜景を見ていると。
声をかけられてソファーに移動した戒李くんに誘われる。
軽く持ち上げて見せてくれているのはシャンパン。
開けようとしている戒李くんに近づきソファに座る。
「少しで、」
「ん」
グラスを傾けて、少なめに注いでもらう。
「乾杯」
戒李くんのグラスと静かに重ねてカチン、と音を鳴らして口へ運ぶ。
「……美味しい」
グラスを見て、目を見張る。綺麗な景色を見ながら、美味しいものを食べて、お酒も飲めて、幸せだ。
最初こそ少し緊張していたこの空間にもいくらか慣れて、仕事モードから気が緩んでしまう。
「美味しいもの食べて、飲めて、本当に幸せです」
「おおげさ」
テレビを流し見ながら、言う戒李くん。
「…工藤さんは慣れてるのかもですけど、私はこの世界が新鮮すぎて、眩しいです」
良いホテルでの連泊も、
ルームサービスも、
まるで、その時代に、その世界に入ってしまったかのような撮影も。