カフェとライター
こっそりと誰にも知られることのなく。
静かにゆっくり彼と会える時間、空間。それが、とても、楽しくて。だから、この関係を壊すことが怖かった。
そのうち来なくなるかもしれない。誰かに見つかれば来なくなってしまうのだろう。卒業までもう、日もないし。
親しい友達、と言うわけでもない。
ただ、同じ場所を共有しているだけの関係。
期間限定の。だから、ちゃんと距離を取っていた。
近づきすぎて、来なくなった時、この先卒業した時に寂しいや、悲しい気持ちにならないように。良い思い出として残せるように。
「…なに?」
「ん?いや、別に?」
宿題をこなす私の前に座り、
何をするでもなくパラパラと。
私が使わない教科書も触りながら、私を観察しているから。
聞けばにっこり口元だけ弧を描いて見つめられる。…こないだ街で見かけたポスターと同じ構図だ、と思った。
ポスターならまだしも。本人に見られるとやりづらい。
「見られすぎると、集中できないんだけど…」
「俺より勉強に集中されるの、嫌なんですけど」
さらっと言われたその言葉に、瞬きを繰り返す。
珍しくソファで寝ずに目の前に座ってきたかと思えば。
何を。
「…構ってよ」
「…どうしたの?」
珍しい。初めてそんなことを言われて。
解いていた問題を手放して
シャーペンを置いて目の前の彼を見る。
ちゃんと向き合った私から、すっと視線を逸らせて 別に、と小さく呟いた戒李くん。