カフェとライター





こっそりと誰にも知られることのなく。


静かにゆっくり彼と会える時間、空間。それが、とても、楽しくて。だから、この関係を壊すことが怖かった。

そのうち来なくなるかもしれない。誰かに見つかれば来なくなってしまうのだろう。卒業までもう、日もないし。



親しい友達、と言うわけでもない。

ただ、同じ場所を共有しているだけの関係。

期間限定の。だから、ちゃんと距離を取っていた。

近づきすぎて、来なくなった時、この先卒業した時に寂しいや、悲しい気持ちにならないように。良い思い出として残せるように。



「…なに?」
「ん?いや、別に?」



宿題をこなす私の前に座り、

何をするでもなくパラパラと。

私が使わない教科書も触りながら、私を観察しているから。

聞けばにっこり口元だけ弧を描いて見つめられる。…こないだ街で見かけたポスターと同じ構図だ、と思った。




ポスターならまだしも。本人に見られるとやりづらい。



「見られすぎると、集中できないんだけど…」
「俺より勉強に集中されるの、嫌なんですけど」


さらっと言われたその言葉に、瞬きを繰り返す。


珍しくソファで寝ずに目の前に座ってきたかと思えば。

何を。

「…構ってよ」
「…どうしたの?」

珍しい。初めてそんなことを言われて。


解いていた問題を手放して

シャーペンを置いて目の前の彼を見る。


ちゃんと向き合った私から、すっと視線を逸らせて 別に、と小さく呟いた戒李くん。

< 49 / 127 >

この作品をシェア

pagetop