カフェとライター
動かない本を軽く引っ張りながら本から戒李くんに視線を上げれば。
ーーー、
ゆっくりと近づいてくるのがわかって。さらっと動く前髪を。…目を合わせて、そこから伏目がちになる彼の瞳を。
少し傾いて
近づいてくる戒李くんの綺麗な顔を。
ぼんやりと、
見てるしかできなかった。
ーーーいま。触れた感触に、じんわりと唇が熱くなる。
ゆっくりと離れていく前髪と、上目遣いの戒李くんが見える。
……いま、
「目、閉じてよ」
元通りに、戻った距離。
固まったままの私に、ふ、と笑ってそういう戒李くんに、瞬きで返事するしかなくて。どうしていいかわからなくて。
顔が見れなくて顔を伏せた。…キスの意味がわからないほど鈍感ではないけれど。
でも、冷静に考えて、この先あの世界でどんどん有名になっていくだろう彼と関わっていく自信がなかった。
……その日が、戒李くんと2人きりで会った最後になった。