カフェとライター
当のその本人に、パタリ、と出会ったのがおしまい。その時は案外早く来てしまった。
…気まずい。
もう少しお手洗いの時間をずらせば良かった。
撮影のタイミングを見て、動けばよかったのに。
完全に戒李くんの撮影のタイミングだけ見て、そのほか何も考えずに来てしまったのが最後。時すでに遅し。
トイレに入り、手洗い場で姿が見えた瞬間、足は止まったが、ここで引き返すわけにもいかず。
「お疲れ様です」
頭を下げて、そそくさと個室へ入る。
廊下やふとした所で女優さんとすれ違うことや鉢合うこともある。よく一緒になる俳優さんは、話しかけてくれることも多く、だいぶん緊張はしなくなったけど。
来くんから聞いた情報のせいだ。戒李くんを狙ってる、とかそういう話を聞くと、火種にならないように気をつけなければいけない。
…高校の時もそうだったなぁ。
気をつけてばっかだったなぁ。何年経っても変わらないか。それは。
何年経ってもモテモテ人気の工藤戒李くん…すごいなぁ。
スッ、と、スリッパの音。遠ざかる足音。出て行ったことを確認して、ゆっくり個室を出る。
いなくなっている手洗い場を見て、ほっと安堵しながら手を洗う。
戻ろ。