カフェとライター
「いるとは思わなかったので…」
すみません、と小さく謝ると、
ニコリ、笑顔を向けられる。時代劇だから薄化粧ではあるけれど。
お姫様役の可愛らしいメイクがとても似合う。大きな瞳は溢れそう、という言葉がぴったりだ。
「工藤さんに今ついてるライターさんよね?」
「はい、」
「ねぇ、どうやって落としたの?」
「え?」
漏れた、声。それを聞いた目の前の彼女はもう一度「工藤戒李」と彼の名前を呟く。
「今までずっと断ってたじゃない。こういうの。バラエティも取材も、ラジオも。女の人との2人との仕事も。それがここにきて急に、1ヶ月も」
それは…、
「な、んででしょうかね?私にはさっぱり…」
本人に聞いてほしい。どうして、この状況で私が詰められてるのか…。
誰か通りかかってくれないだろうか。さすがにこの状況、向こうは人目を気にしないわけではないだろう。
彼女の奥で、誰か通りかからないか視線を移らせながら、この状況を早く終わらせようと頭をフル回転させる。