カフェとライター
「そうなんですね」
唇が弧を描き、意地悪そうな顔で俺を見上げる。
「…工藤くん、全然インタビューさせてくれないって聞くわよ」
「まぁ…」
「工藤くんも、機会があったら使ってあげて?あ、そうだ、今度のロイヤルアサムの新作発表会、参加するでしょう?」
言われて、考える。新作発表会…そういやあったような。
聞いたことのある予定。まだ少し先だから、全然気にして無かった。
「マスコミも入るじゃない?それに今度、そのライターさん招待しちゃった」
なんかいろんな景色見せたくなっちゃって。
久しぶりにファンになったかも。そう言って笑った松村さんの横で、挨拶に来て正解だったな、としか思った。
もう一度、近づく方法を。
向こうに出向くのではなく、
向こうから、こっちの世界に入ってくれるのなら好都合。
ただの仕事が、楽しみに変わって。会って、久しぶりに彼女と目が会って。
もしかしたら、忘れられているかもしれない。あの時のことなんて無かったことになっているかもしれない。
少し、そんな不安もあったけど。
俺を見た彼女の表情で、
あ、ちゃんと覚えてくれてた。
忘れられてなかったんだ。って安堵した。
覚えてくれてた。びっくりして、焦った顔をして、そして気まずそうにして。
顔に心情が綺麗に出てるのに、知らないふりをしてそのまま立ち去ろうとする彼女に、
「……うい、」
名前を呼んで、
躊躇いなく手を伸ばして
やっと、捕まえた。